決心 −右隣特別番外編・2−

 

 

「陸っ!?」

「ゆうこっ!?」

数日後、会社帰りに懐かしい人物にばったり会った。

 

小沢ゆうこ。

大学時代、一年くらい付き合っていた元カノ。

 

結子と同じ“ゆうこ”と言う名前で別れてからも“良いお友達”で、

たまに会ったりしていた。

体よく言えば“良き相談相手”と言ったところ。

 

「どうしたの?なんか元気なさそうじゃない。」

「・・・そうか?」

「なんか思いっきり悩んでる顔してるけど?」

さすが元カノ・・・と、言うべきなのか、

そーゆー所は昔と変わらず?鋭い・・・。

 

「ね、今から飲みに行かない?話くらいなら聞くわよ?」

断る理由は特にない。

「うん、そうだな・・・久しぶりに行くか。」

 

 

二人でよく行く店に入り、案内された席に座るなりゆうこは口を開いた。

「相変わらずまだ一人なの?」

 

「いや・・・」

 

「お?・・・て事は、ようやく彼女ができたワケ?」

ゆうこは興味深げに俺の顔を覗き込むとにやりと笑った。

 

「・・・ん・・・実はさ・・・」

俺はゆうこに結子と再会した事を話した。

結子の事はゆうこと別れる時にすでに話していた。

 

“どうしても忘れられない人がいる。”

 

俺はそう言ってゆうこと別れた。

ゆうこも俺と付き合っていて、薄々そんな気がしていたと言って、

すんなりと別れた。

申し訳ない・・・と俺が言うと、ゆうこは無言で首を横に振った。

そして・・・これからは“良いお友達”で・・・と言ってくれたのだ。

 

「じゃあ、ずっと忘れられなかった人に会えたんだ?」

 

「うん・・・。」

 

「よかったじゃない?何をそんなに悩んでるの?」

 

「んー・・・。」

 

「・・・もしかして・・・その人、もう結婚して人妻になってたとか?」

 

「いや、今俺と付き合ってたり・・・」

 

「じゃあ、全て丸く収まってるんじゃない。」

 

「んー・・・。」

 

「・・・なんなの・・・一体?」

ゆうこは少し眉間に皺を寄せ、頬杖をついた。

 

「この間さ・・・彼女の誕生日、やっとわかったんだ・・・。」

 

「・・・何それ?」

 

「俺が事故に遭ったのは知ってるだろ?」

 

「うん、頭も打って記憶が飛んだとか言ってたけど・・・」

 

「それなんだよ・・・。」

 

「それって?」

 

「記憶が飛んでるおかげで、この間まで彼女の誕生日が

 ずっとわかんなくてさ・・・。」

 

「あー・・・それは歯痒いね・・・。」

 

「・・・で、やっと誕生日がわかったと思ったら、

 とっくに過ぎてたってオチ・・・。」

 

「それで落ち込んでるんだ?」

 

「・・・ん、まぁ・・・。」

 

「何?他にもまだあるの?」

 

「ゆうこは俺の好きな食べ物とか嫌いな食べ物とか憶えてる?」

 

「うん、憶えてるよ。」

 

「やっぱ、フツーそうだよなー・・・。」

 

「もしかして、彼女の好きな食べ物と嫌いな食べ物がわかんないとか?」

 

「今はまた付き合うようになってから、だいぶわかるように

 なってきたんだけど・・・。」

 

「なら、問題ないじゃない。」

 

「んー・・・そんなんで一緒にいて楽しいのかな?・・・て。」

 

「そんなこと言ってたら付き合い始めのカップルなんて、

 お互いの事なんにも知らないじゃない?」

 

「俺達は付き合い始めなんかじゃねぇし・・・。」

 

「・・・まぁ、そりゃそうだけど・・・、

 確かに多少は彼女のほうも戸惑いはあるかもね?」

 

「俺が気が付いていないだけで、傷ついてるんじゃないかな・・・。」

 

「陸・・・。」

 

「このまま・・・記憶が戻らなかったら・・・」

 

「でも、陸は一緒にいたいんでしょ?」

 

「もちろん。」

 

「結婚もしたい・・・と。」

 

「・・・う、うん・・・まぁ・・・。」

俺はゆうこにズバリと言い当てられ、ちょっと焦った。

 

「だけど、記憶が完全に戻っていない自分がプロポーズして

 果たして彼女が受けてくれるかどうかが不安・・・とか?」

 

「・・・。」

 

「ハイ、図星ーっ。」

 

「・・・。」

 

「じゃ、陸は記憶が全部戻るまでプロポーズしないつもり?」

 

「いや・・・それじゃ、いつになるか・・・。」

 

「そうよねー、もたもたしてたら他の男に盗られちゃうかもしれないしねー?」

 

「う・・・。」

それは絶対に嫌だ。

 

「その彼女がどうして10年前、姿を消したかは知らないけど・・・

 また陸の目の前に現れたって事は・・・やっぱり結ばれる運命だったんじゃない?」

 

「え・・・?」

 

「陸が事故って入院したのも、記憶が飛んじゃったのも・・・

 それがなかったら彼女と再会していなかったかもしれないでしょ?」

 

「うん・・・そうだな・・・。」

俺がもし、事故に遭っていなくて入院してなかったら・・・

隣同士になっても結子はそのまままたどこかへ引っ越していただろう。

事故に遭ってあのまま外科にいたら・・・?

それでもやっぱり同じ事だ。

記憶が飛んで脳外科に移されたから結子とまた会えたんだ・・・。

 

「それに、年齢的にも結婚しててもおかしくないのに

 彼女は独身だったワケでしょ?」

 

「あぁ・・・。」

最初は結婚しているのかとも思った。

旧姓のままで仕事をしているのかもしれない・・・と。

けど、結子は結婚していなかった。

 

「それってさ、ただ偶然が重なっただけかもしれないけど、

 その三つの要因の内、どれか一つでも欠けてたら陸はまだ彼女を

 取り戻せてなかったワケじゃない?」

 

「うん・・・。」

 

「それに・・・10年も離れてたのに、彼女は陸のところへ戻ってきてくれた。」

 

「それは俺の方から言ったから・・・。」

 

「そうだとしても、10年も離れてたら余程陸の事が好きじゃない限り

 戻ろうなんて思わないって。」

 

「そうかな・・・?」

 

「だって一度付き合ってる人だし、たとえ嫌いになって

 陸から離れたんじゃないとしても10年はやっぱり長いよ?」

 

「・・・。」

 

10年・・・

ずっと結子の事だけを想ってきた。

それがやっとまた俺のところに戻ってきてくれた・・・。

 

もう二度と離したくない・・・。

 

「たとえ記憶が全部戻っていなくても、“陸”が好きだから

 一緒にいるんじゃないの?」

 

“俺”が好きだから・・・

 

「うん・・・そうだな。ありがとう・・・ゆうこ。」




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