ねこねこぴーち −2−

 

 

……6、7、8、9、10……――。

 

ジャスミンさんに十秒間目を閉じているように言われた私は頭の中で十数えた。

すると、さっきまで感じていたジャスミンさんの気配と香りが消え、

辺りが明るくなった気がした。

 

(ここ……どこだろう?)

ゆっくりと目を開けてみると、そこは私の知らない場所だった。

ただ人通りは多い。

周りを見回してみても目線が低過ぎてよくわからない。

上を見上げてみると高架があった。

 

(駅の近くかな? てか、線路ってあんな高いトコにあったっけ?)

 

そこで私は気がついた。

 

(……そうだ、私、猫になっちゃったんだっ)

 

5m先に見えるコンビニの前に行き、入口の自動ドアに映った自分の姿を確認する。

 

(猫だ……)

そこに映りこんでいたのは黒い猫だった。

小さな、小さな真っ黒い猫。

 

それが今の私の姿――。

 

 

     ◆  ◆  ◆

 

 

(さて、これからどうしようか?)

 

コンビニの前から見える駅を見つめながら考えていると、暫くして私の知っている人が

改札から出てきた。

 

「ニャッ(あっ)」

それは私が片想いしている相手・新堂純平(しんどうじゅんぺい)君だった。

 

「ニャアーン!(新堂く〜ん!)」

思わず名前を呼びながら駆け寄る。

しかし、猫だから“ニャー”としか鳴けなかった。

 

新堂君はいつも私が声を掛けると笑いながら手を振ってくれる。

だけど今日は何故かピタリと足を止め、怪訝な顔をした。

 

「ニャ?(あれ?)」

(あ、そっか。今、猫だもんね)

 

私は眉間に皺を寄せたまま再び歩き出した彼について行った。

 

 

「……」

そして暫くすると無言で彼が振り返った。

その顔つきはあからさまに嫌そうだ。

 

(なんで、そんな顔するのー?)

 

「もー、ついてくんなよー」

 

「ニャッ!?(えっ!?)」

 

「……」

新堂君はそう言うと早足でまた歩き始めた。

 

「ニャァー……(新堂君……)」

(ひょっとして……)

 

「ニャァー(待ってー)」

ついてくるなと言われたけれど、それでも私は彼の後を追った。

今度は気付かれないように。

 

(仔猫で良かった)

 

新堂君が振り向きそうになっても体がちっちゃいから何処にでも隠れられるし、

肉球のおかげで物音を立てずに後がつけられる。

 

 

     ◆  ◆  ◆

 

 

そうして彼は何度も後ろを振り返って警戒しながら家の中に入った。

 

(ここが新堂君の家かぁー)

 

真っ白な壁に薄いブラウンの屋根の二階建てのお家。

玄関のドアがパタンと閉じられると中から彼が「ただいまー」と言ったのが聞こえた。

 

(ふみゅぅー……新堂君の後を追いかけてみたのはいいんだけど……これからどうしよう?)

 

暫しの間、考える。

すると二階の部屋の窓が開いて新堂君の姿が見えた。

 

(あ、新堂君)

 

新堂君は私に気がつくとまた嫌そうな顔をした。

 

(まただ……やっぱり新堂君、猫嫌いなのかなぁ?)

 

猫じゃなくて犬にして貰えばよかった……。

 

 

     ◆  ◆  ◆

 

 

――辺りがすっかり暗くなってきた頃、空を見上げると厚い雲で覆われていた。

いつもなら星が見えるのに今日は月すら見えない。

 

(雨、降りそう……)

そう思っていると顔にポタリと雨粒が落ちてきた。

 

(……冷たい)

一滴、二滴……段々、ポツポツと雨が強くなってきて、あっという間に

私の小さな体を濡らしていった。

 

(寒いよー……)

キョロキョロと辺りを見回してどこか雨宿りが出来る場所を捜していると、

二階にある彼の部屋の窓が閉められ、カーテンが引かれた。

 

「ニャアー……(新堂君……)」

窓際に映っているシルエットに向かって鳴いてみる。

 

けれど、私の小さな鳴き声は大きな雨音に掻き消された――。

 

HOME
INDEX
BACK
NEXT