ねこねこぴーち −3−

 

 

冷たい雨の中――、

 

私は新堂君の部屋が見えるこの場所から動かずにいた。

 

 

そしてもう一度シルエットだけでも彼の姿を見る事が出来たら……と思いながら

カーテンが閉められた二階の部屋を見つめていると、フッと灯りが消えた。

 

(寝ちゃったのかな?)

 

時計を持っていないから正確な時間はわからない。

 

(雨、冷たいけどここにいよう……)

 

だって、ここにいれば明日の朝、新堂君が学校に行く時に見送る事が出来る。

 

だから私はそのまま目を閉じて眠った――。

 

 

     ◆  ◆  ◆

 

 

「おーい、チビ助」

それからどれくらいの時間が経ったのか突然、頭の上から声がした。

眠りが浅かった私は、その声に目を覚ますと裸足にサンダルを履いた誰かの足元が見えた。

 

「……ニャウー?(誰ー?)」

顔を上げると新堂君が私の目の前にしゃがみこんでいた。

傘を差して心配そうな顔で私を見下ろしている。

 

「おまえ、雨宿りもしないでずっとこんな所にいたら風邪ひいちゃうぞ?」

 

(だってー……)

 

「首輪してないトコみると野良か……まだこんなちっちゃいのに親猫が傍に

 いないって事は捨てられたのか?」

新堂君はそう言うと雨で濡れている私の頭を軽く指で撫でた。

そして私の首根を掴み、ひょいと持ち上げて「しょーがねぇーなぁー」と

家の中に入れてくれた。

 

(新堂君のお家だー)

 

でも、ずぶ濡れの私は家の中に入れてもらっても寒くて震えていた。

 

(え〜ん、寒いよぅ)

 

新堂君は私の首根を掴んだまま家の奥へと足を進めた。

家族もみんなもう寝ているのか家中の灯りが消されている。

 

私は、ぷら〜んと前足も後ろ足もバタつかせる事もなく運ばれていた。

すると、彼に「おまえ、大人しいヤツだな」と笑われてしまった。

 

(てゆーかね、おなかすいちゃったの……)

寒くて動けないというのもあるけれど、気がつけば朝御飯を食べたきりだった。

 

新堂君は玄関から廊下を通り、浴室に入った。

そして、私を浴室の床にそっと置くと温かいシャワーを体にかけてくれた。

 

「フミャ〜ン♪(あったか〜い♪)」

 

「あはは、おまえホントに気持ち良さそうな顔するなー」

 

(だって、ホントに気持ちいいんだもーん)

 

「ほら、体もついでにきれいに洗ってやるから、大人しくしてろよ?」

 

「ミャッ!?(えっ!?)」

 

「まさかと思うけど、洗ったらいきなり白猫だったってゆーオチはないよな?」

新堂君はアハハッと笑いながら掌にちょっとだけボディシャンプーを取って泡立てると

私の小さな体を撫でるように洗い始めた。

 

(もきゃ〜っ)

 

「よしよし、そのまま爪引っ込めてろよー?」

 

(も、もうダメ……キュン死しそう……)

 

背中を撫でるように洗った後、今度は仰向けにされておなかを撫でられていると、

新堂君が「あ……」と言った。

 

(?)

 

「おまえ、女の子だったのかー」

 

「ニャゥー(そうだよー)」

 

「じゃあ、もっと優しく洗ってやんないとな?」

新堂君はそう言ってニカっと笑うと、さっきまでよりももっと優しく撫で始めた。

 

……もう、昇天寸前です……。

 

 

     ◆  ◆  ◆

 

 

「ちょっとここで待ってろな?」

新堂君はお風呂に入れてくれた後、私を抱きかかえて二階の部屋に連れて来ると、

私を残してまたすぐに下に下りて行った。

 

(ここ、新堂君のお部屋かな?)

ちょっと探検。

部屋に入ってすぐ左側にクローゼット。

その奥に低めのチェストがあってその上にテレビが置いてある。

窓際にある机の上は意外ときれいに片付いていて、机の横には新堂君のカバンと

壁際に制服が掛けられていた。

窓にはクリーム色のカーテン。

部屋の右側を占めているシングルベッドは鮮やかな薄いグリーンのシーツだ。

 

(ん?)

そしてベッドの下に数冊の雑誌があるのが見えた。

 

(こ、これは……まさか……)

……見なかった事にしよう。

うん、そうしよう。

 

 

「ほら、温かいミルクだぞー、おなかすいてんだろ?」

しばらくして部屋に戻ってきた新堂君は温かいミルクが入ったお皿を私の目の前に置いた。

 

(し、新堂君……ありがと)

ペロッと舌でちょっとだけ味見してみた。

熱くもなく、冷たくもないちょうどいい温度だ。

 

「ニャ〜ン♪(おいし〜い♪)」

 

「いっぱい飲んで大きくなれよ」

新堂君は優しくそう言いながら頭を撫でてくれた。

 

「俺、ホント言うと猫嫌いなんだけどなー」

 

(っ!? はうぅぅ……やっぱり新堂君、猫嫌いだったんだ……)

 

「でも、おまえは大人しいから大丈夫かも」

そう言ってミルクを飲む私の頭を撫でてくれている新堂君。

昔、猫で何か嫌な事があったのかもしれない。

それでも、大人しいという理由だけでこうして頭を撫でてくれる彼はやっぱり

優しい人なんだと私は思う――。

 

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