ペット以上、恋人未満 −14−

 

 

『好きだよ・・・。俺と結婚してくれ。』

 

その台詞の後にキスをした・・・。

 

 

―――のは、映画のワンシーン。

あたしと綺羅人は昨日観そびれた映画を見に来ていた。

 

これ・・・ホントにSF映画・・・?

 

スクリーンの中では主人公達が熱いキスを交わしている。

そして、すぐに場面が切り替わり、ラブシーンはそこで終わった。

ちなみにここはカップルシート。

綺羅人とあたしはずっと手を繋いだまま映画を観ている。

 

綺羅人の気持ちは昨夜、彩穂さんとの事を話してくれた後に聞いた。

 

“凌子さんが好きだ・・・ペットでもいいから、傍にいたい。”

 

そう言われて抱きしめられた。

あたしが「ペットじゃないよ。」と言うと、

「じゃあ、凌子さんにとって俺は何?」と、聞かれた。

 

“恋人未満・・・かな。”

 

そうとしか答えられなかった。

 

綺羅人の事は多分、好きなんだと思う。

昨日、彩穂さんが婚約者だったって聞いて胸が痛んだから。

もう彩穂さんのところから戻ってこないかもって思った時も

すごく悲しかったから。

だから、目が覚めて綺羅人の顔があった時はすごく嬉しかった。

あたしの中の綺羅人の存在はもう“ペット”なんかじゃない。

でも、それはただ克彦さんとの事もあったから

気持ちが不安定なだけなのかもしれない。

 

“ペット以上、恋人未満”

 

それが今のあたしにとっての綺羅人。

 

 

それから数日が経って、あたしは前みたいに笑えるようになった。

それは多分、綺羅人が“好きだよ”って言ってくれたから。

 

それがすごく嬉しかった・・・。

 

綺羅人は相変わらず駅まで迎えに来てくれている。

朝食も夕食もずっと作ってくれている。

あたしが「ホントにもう大丈夫だよ?」と言っても

「俺がやりたいからやってるの。」と笑うだけだった。

 

ずっとこんな日が続くと思っていた。

 

ずっとこんな日が続いて欲しいと願っていた。

 

・・・でも―――。

 

 

「・・・ねぇ、凌子さん。」

夜、いつものように二人でベッドに入って寝ていると

綺羅人が思い切ったように口を開いた。

 

「うん?」

 

「俺、もう一度イタリアに行こうと思ってるんだ。」

 

・・・え?

 

「もう一度、ちゃんとイタリアで料理の勉強して、

 ちゃんと自分に自信が持てるようになったら帰ってくる。

 ・・・それでね・・・俺、またここに帰ってきてもいい?」

綺羅人はそう言うとあたしの顔をじっと見つめた。

 

綺羅人がイタリアへ行く・・・。

 

あたしはその事がショックだった。

 

「・・・また、ここに戻って来たい・・・ダメ?」

 

「ダメじゃないよ・・・。」

 

でも・・・

 

心の中では「行かないでっ!」って、叫んでる。

 

「ダメじゃないけど・・・」

 

ダメじゃないけれど・・・

 

今度こそ本当に綺羅人が戻ってこない気がした。

 

 

あたし・・・綺羅人の事が好きだ・・・。

 

克彦さんの事があったからとか、そんなの関係ない。

 

 

今、やっとわかった―――。

 

 

「・・・いつ、帰ってくるの・・・?」

 

「わかんない・・・。2年後になるか、3年後になるか・・・

 もしかしたら、もっと・・・」

「それじゃ、忘れちゃうよっ?」

 

そんなに長く離れていたらきっと、綺羅人はあたしの事なんか忘れて

ここへはもう戻ってこない。

 

「忘れないよ、俺は絶対、凌子さんの事忘れない。」

 

「そんなの、わかんないじゃん・・・。」

 

「絶対忘れない。」

 

「じゃあ、あたしが忘れちゃったら・・・どうするの・・・?」

 

忘れられる訳はない。

 

それでも・・・

綺羅人に何か言って欲しかった。

 

「・・・なら・・・、忘れられなくする。」

綺羅人はそう言うとあたしの上に覆いかぶさってきた―――。

 

 

―――翌朝。

 

目が覚めると綺羅人の姿はもうなかった。

早朝に部屋を出て行ったみたいだ。

綺羅人の荷物もなくなっている。

 

唯一つ、ソファーのガラステーブルの上に

手紙と鍵が置いてあった。

 

でも、あたしの部屋の鍵じゃない。

 

−−−−−−−−−−

俺のマンションの鍵、持ってて。

行ってきます。

綺羅人

−−−−−−−−−−

 

綺羅人・・・帰るところあったんじゃない・・・。

 

なんとなく最初からそんな気はしていた。

でも、それを口にしてしまえば綺羅人が

ここから出て行ってしまう気がして言えなかった。

 

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