漆黒の翼 -1-
―――とある日の夕方。
ユウリがいつものように森の中で木の実をを採り、
背後になにか気配を感じて振り向くと、数匹の狼に囲まれていた。
グルルルルルル・・・・ッ
狼達はうなり声をあげ、ユウリに今まさに飛びかからんとしていた。
森の中に入れば狼に出くわす事などたいして珍しいことではなかった。
そしてユウリにとって、そこから逃げることも簡単な事だった。
だって、翼を持っているのだから・・・。
ユウリは普段、魔力で自分の姿を普通の人間と変わらない格好にしている。
腰のあたりまである金色の長い髪、蒼色の瞳、透きとおるほどの白い肌。
こんな森の奥深く、別に誰が来るというワケでもなかったが
万が一、本当の姿を見られるとすぐに街中の噂になってしまうからだ。
しかし、今みたいにこうして狼に出くわした時などは
瞬時に本来の姿に戻り、空へと飛び立つのだ。
だが、ユウリが翼を広げようとしたその時、
狼達の背後に人影が見えた。
ユウリは咄嗟に姿を変えるのを止めた。
すると、その一瞬の隙をついて一匹の狼がユウリに飛びかかって来た。
「きゃっ!?」
ユウリが避けようとした時には遅く、
狼はユウリの足に噛み付いた。
(逃げられない・・・っ!?)
ユウリがその場に倒れ込み、ギュッと目を瞑った瞬間、
キュウゥ・・・ッ
と、うめき声をあげてユウリの目の前に狼がどさりと崩れ落ち、
その背中には短剣が突き刺さっていた。
「大丈夫かっ!?」
短剣が飛んできたと思われる方向から声が聞こえ、
ユウリがハッと顔をあげると、一人の騎士が馬から降りて
駆け寄ってきていた。
白いサーコートとマントを身に着けた長身の騎士は
鞘から剣を素早く抜き、まだ数匹残っている狼に向けた。
狼達の攻撃の矛先は騎士へと向けられ、
恐ろしいほどギラギラとした眼で騎士の姿を捕らえている。
そして、一匹の狼が飛び掛り、その後に続いて次々と騎士に向かって
狼達が飛び掛っていった。
「っ!?」
ユウリは声にならない声をあげた。
しかし、その騎士は狼達をもろともせず、剣で捌いていった。
次々と地面に倒れてゆく狼。
すばやい動きでいとも簡単に狼達を片付けた。
「・・・怪我は?・・・大丈夫か?」
騎士は足に怪我を負い、動けなくなったユウリの目の前に
来ると心配そうな顔をした。
「あ・・・はい。」
実際、ユウリはこんな怪我くらいたいそうな事ではなかった。
有翼人は元々、癒しの力を持っており、
傷や病気を治すことができる。
そして、魔族と有翼人の混血であるユウリにもまたその力があった。
しかし今、目の前にしゃがみこみ心配そうにユウリを
見つめている騎士はそんな事を知るはずもない。
「ちょっと見せて。」
騎士はそう言うとユウリに噛み付かれた足を
見せるように促した。
「あ・・・これくらい、大丈夫です。」
「何言ってるんだよっ、ちゃんと手当てしないと・・・」
騎士はそう言いながら首に巻いていたスカーフを外し、
そして、自分の荷物の中から水を出してそれに含ませた。
「ちょっと沁みるよ。」
ユウリの血が滲んだ足をなるべく痛くないようにそっと
スカーフで拭い、傷の深さを確認した。
「結構深いな・・・。」
ユウリの足からはまだ血が流れていた。
騎士はユウリの足に止血作用のある薬草をスカーフで巻きつけると、
「家まで送っていくよ、どこ?」
とユウリを軽々と抱き上げた。
「えっ!?・・・あ、いえ、大丈夫ですっ。」
ユウリが慌てて言った時には遅く、
すでに馬に乗せられていた。
「その足じゃ歩けないだろ?」
「・・・。」
確かに“今は”歩けない・・・。
ユウリはまさかここで本来の姿を見せるワケもいかず、
黙ってそのまま騎士の言うとおりにすることにした。
「そういえば・・・まだ名前聞いてなかったな?
俺はラーサー=シルヴァン・・・君は?」
「・・・ユウリ=マーシェリー・・・です。」
「ユウリか・・・かわいい名前だね。よろしくユウリ。」
ラーサーはユウリに柔らかい笑みを向け、
腕の中にユウリの華奢な体をしっかりと
抱きかかえるようにしながら手綱を引いて
ゆっくりと馬を歩かせ始めた。
「・・・あ、あの・・・ラーサー様はもしかして
王立騎士団の方・・・ですか?」
ユウリはラーサーが持っている紋章が刻まれた盾に目を向けた。
その盾に刻まれている紋章はまさしくランディール王国の
王立騎士団にしか許されていない紋章だ。
「あぁ、そうだよ。」
「どうして・・・こんな森の中に・・・?」
「王の使いで隣のアントレア皇国に書簡を届けた帰りなんだ。
アントレア皇国へはこの森を抜けるのが一番早いからね。」
「あ・・・それでは、私なんかに構っていたりなんかしたら
お城に戻るのが遅くなるのでは・・・っ?」
「気にする事はない。」
「で、でも・・・」
「我が君主、ランディール王はそんな事でお怒りになったりはしない。
むしろ、困っている民を放って城へ戻ることの方が許されない。」
「・・・。」
「だからといって、君を助けたのは俺自身の意思でもあるんだからな?」
ラーサーはユウリの顔を覗き込んだ。
ユウリはその瞳にドキリとした。
ユウリと同じ金色の髪。
深く蒼い瞳。
ユウリは思わず無言でコクンと頷いた。
ネット小説ランキング>恋愛FTシリアス部門>「漆黒の翼」に投票
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)