漆黒の翼 -10-

 

 

―――3日後。

約束通り、ラーサーがユウリの所へ来た。

 

「返事を聞かせてもらおうか。」

ラーサーは丸太小屋の中に通されると、静かに口を開いた。

 

「あの・・・その前に一つだけ、お聞きしてもよろしいですか?」

 

「ん?」

 

「ラーサー様が私に会いに来て下さっていたのは・・・

 国王様のご命令だったから、ですか・・・?」

ユウリは少し不安そうにラーサーの顔を見上げた。

 

「・・・あぁ。」

ラーサーは短く返事をした。

それを聞いたユウリは少しだけ表情が曇った。

 

「・・・だが、それは俺の意思でもある。」

しかし、ユウリの不安を払拭するかのようにラーサーは真っ直ぐに

見つめ返しながら言った。

 

「確かに国王様からのご命令で君に会いに来ていたのは事実だ。

 けど、だからといって俺が君に会いに来ていた事も

 君に言った言葉もすべて国王様に言わされていた訳ではない。

 俺自身の素直な気持ちだ。」

 

ユウリはラーサーから視線を外す事無く、その言葉を聞くと

「・・・わかりました。」

と、静かに頷いた。

 

「私をお城に連れて行って下さい。」

 

「・・・いいのか?」

 

「はい、ラーサー様の今のお言葉を聞いて覚悟ができました。」

ユウリははっきりとした口調で言った。

 

「・・・ありがとう。」

ラーサーは柔らかく微笑んだ。

 

「荷物は、もう纏めてあるのか?」

 

「はい・・・と、言ってもあまりないですけど。」

ユウリの言うとおり、荷物はあまり多くはなかった。

衣類と身の回りの物、そして数十冊の書籍・・・、

それ以外の物はすべて置いて行くからだ。

家具は城の方で用意された物があるし、

調理器具なども当然、宮廷に仕える料理人がいるため

料理などもしなくてもいい。

 

ラーサーはユウリの荷物を受け取ると一緒に来ていた

騎士に手渡した。

そしてユウリの手を取り、箱馬車へと乗せた。

 

ユウリは荷物を運ぶ為の幌馬車と自分とジョルジュ、ラーサーが

移動する為の箱馬車が用意されている事に驚いた。

 

「君ならきっと一緒に来てくれるだろうと思ってね。」

ラーサーはそう言ってユウリに微笑んだ後、

「じゃ、出発しようか。」

と言った。

 

 

「あの・・・ラーサー様は何故、私が王立魔道士隊へ入る事を

 決めたとお思いになられたのですか?」

城へ向かう馬車の中、外の景色を眺めていたラーサーに

ユウリは訊ねた。

 

「・・・ん?・・・あぁ、それは君が王立騎士団を助けてくれた時、

 “私の力で助ける事ができるなら・・・”と、君は言った。

 それに、“あのまま行かなかったらきっと後悔してた”とも・・・

 だから、きっと今回も君は後悔しない決断をするんじゃないかと思ってね。」

 

「すっかりお見通しだった訳ですね。」

ジョルジュがそう言うとラーサーは小さく笑って見せた。

 

 

―――出発して約1時間以上が経った頃。

ようやく馬車は城下町に入り、少し小高い丘の上に聳える城が見えてきた。

 

「ユウリ、城が見えてきたぞ。ここからは後30分余りで着く。」

 

「はい。」

ユウリはいつも遠くからしか眺めたことのなかった城が

段々と目の前に近づくにつれ、緊張し始めた。

 

 

やがて―――、

馬車は大きな城門を抜け、城の中へと入っていった。

 

馬車を降りたユウリとジョルジュはラーサーに案内され

ランディール王の待つ謁見の間のへと向かっていた。

 

(ここから先はもう引き返せない・・・。)

 

ユウリは不安に思いながら前を歩くラーサーの背中を見つめていた。

すると、そんなユウリの様子を察してか、

ラーサーはユウリの方に振り向くと

「大丈夫か?」

と、優しく微笑んだ。

 

「・・・は、はい。」

ユウリはその笑顔に少しドキリとした。

 

ラーサーはユウリが返事をすると再び前へ向き、

謁見の間の前へと進み、扉の前に控えていた兵士に

「国王様にユウリ=マーシェリー殿をお連れしたと伝えてくれ。」

と言った。

兵士は「はっ。」と短く返事をし、ラーサーに敬礼すると

謁見の間のへと入っていった。

 

兵士はすぐに謁見の間から出てきた。

そして「どうぞ、中へお入りください。」と、

扉を開け放った。

 

ラーサーはもう一度ユウリの方に軽く振り返ると

少しだけ微笑み、ゆっくりと謁見の間の中へと歩みを進めた。

 



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