漆黒の翼 -11-

 

 

「ユウリ、そしてジョルジュも遠いところをよく来たな。

 長時間の移動で疲れたであろう。明日は入隊式がある。

 今日のところはゆっくり休むがよい。」

玉座に座っているランディール王は優しい口調でそう言うと、

目の前に跪いているユウリとジョルジュに柔らかい笑みを向けた。

 

「ユウリ、ジョルジュ、慣れないうちはいろいろと困ることもあるでしょうが、

 今日よりはこの城を我が家と思い、国の為に尽力してください。」

国王の隣に座っているランディール王妃もそう言って優しい笑みを浮かべた。

 

「はい、ありがとうございます。精一杯精進致します。」

ユウリが緊張した様子で少し小さな声で言うと、

ランディール王はラーサーに視線を移し、

「ラーサーもご苦労であった。ユウリの事、頼んだぞ。」

と言った。

 

「はっ。」

ラーサーは短く返事すると静かに立ち上がり、

「それでは、国王様、王妃様失礼致します。」

と、ユウリとジョルジュと共に一礼して謁見の間を後にした。

 

 

謁見の間の扉がパタンと閉じられた後、

ユウリはフーッと息を吐き出した。

そんなユウリを見て、ラーサーはクスリと笑った。

「緊張した?」

 

「は、はい・・・。」

 

「ははは、そうだろうなぁ・・・俺も初めて国王様にお会いした時は

 緊張してて結局、何を言われたか覚えてないし。」

 

「ラーサー様は、いつお城に入られたのですか?」

 

「10歳の時だよ。」

 

「そんな小さな頃から?」

 

「あぁ・・・だから、今は城にいる皆が家族みたいなもんなんだ。」

 

「じゃあ、もう人生の半分以上をお城で過ごしてるんですね。」

 

「ん?半分以上?・・・ユウリ・・・」

 

「はい?」

 

「俺の事、いくつだと思ってるんだ?」

 

「・・・お、おいくつ、ですか・・・?」

 

「・・・20歳。」

 

「えっ!?」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「その顔は絶対、25,6だと思ってただろ?」

 

「あ・・・いえ・・・」

 

「・・・ま、いいけど・・・。」

ラーサーはユウリをちらりと横目で見た後、

「ところでユウリは?いくつなんだ?」

と訊ねた。

 

「あ、えと・・・18歳です。」

 

「ん?俺、スリーサイズを聞いたんだけど?」

 

「えっ!?」

ユウリは顔を真っ赤にして驚いた。

その反応を見たラーサーはプッと吹き出し、

「冗談だよ。」

と、笑い始めた。

 

 

―――それからラーサーは城の地下にある

合成室へとユウリを連れてきた。

 

「ここは宮廷魔術師達がいろんな合成や研究を行っている部屋なんだ。」

 

部屋の中にはビーカーやフラスコ、試験管・・・

そして、いろいろな薬品や薬草、粉末などが置いてある。

 

「うわぁ・・・。」

ユウリはラーサーの後ろをついて行きながら、

部屋の中を見回した。

 

「王立魔道士隊の隊長をしておられるアドルフ様は

 いつもこの合成室で研究をしているんだ。」

ラーサーはそう言うと合成室の一番奥にいる人物へと近づいた。

 

「アドルフ様。」

 

「ん?」

白衣を着たその人物はラーサーに呼ばれ、

スッと顔をあげた。

 

「ユウリ=マーシェリー殿です。」

 

「おぉ、無事に着いたか。」

髭を蓄え、優しそうな目をした初老の人物は

ユウリの姿を認めると、にっこりと笑った。

 

「ユウリ=マーシェリーです。よろしくお願い致します。」

ユウリは先程のラーサーの“軽い冗談”のおかげで

少しだけ緊張が解れていた。

 

「私はアドルフ=ベルナール。王立魔道士隊の隊長をしている。

 今日は疲れているだろうし、城の中の案内もまだだろう?

 魔道士隊の皆への紹介は明日、入隊式が終わって正式に入隊した後にしよう。」

 

「はい、わかりました。では・・・。」

ラーサーとユウリはアドルフに一礼し、合成室を後にした。

 

 

「さて・・・とりあえず先に挨拶をしなければならない人は

 もういないから・・・次は君の部屋へ案内しよう。」

ラーサーはそう言うと再び階段を登り始めた。

そして移動中もいろいろとユウリに説明をしてくれた。

ユウリの部屋に行く途中にある魔道書や他国の文献、

歴史書などが置いてある図書室、食事を摂る為の食堂や

廊下から見える建物は魔術の練習ができる魔道室だという事も

説明してくれた。

 

「だいたい君が主に使う場所はこれくらいかな・・・

 後は徐々に覚えていけばいい。」

 

「はい。」

 

「で、ここから先は騎士や魔道士、メイド達の部屋になっているんだ。」

食堂から続いている廊下を進むと左右にたくさんのドアが並んでいた。

そして、さらにその奥に階段があり、そこを昇って行くと

下の部屋よりも並んでいるドアの間隔が広い廊下に繋がっていた。

どうやら下の部屋とは造りが違うらしい。

 

「ここが君の部屋だ。」

ラーサーはとある部屋の前で立ち止まり、

ユウリをドアの前に立たせた。

 

「開けてごらん。」

 

「はい。」

ユウリはラーサーに言われると少し遠慮がちにドアノブに手を掛けた。

ドアを開けると、中はユウリが予想していたよりも広く、

家具は全て新しい物が揃っていた。

 

「中に入ってみろよ。」

ラーサーは入口に立ったまま驚いて動かないでいるユウリに

笑いながら言った。

 

「は、はい・・・。」

ユウリはおずおずと中に入り、部屋の中を見回した。

ベッド、ドレッサー、チェスト、デスク、クローゼット・・・

そしてジョルジュの為の止まり木まである。

 

「誰もいないですね・・・?」

ユウリは広い部屋の中、自分とラーサー以外

他に誰もいない事に首を捻った。

 

「当たり前だろ?ここは君だけの部屋なんだから。」

ラーサーはプッと吹き出した。

 

「えっ!?」

ユウリは個室だとは思っていなかったらしい。

バス・トイレ付き。

今まで住んでいた丸太小屋が2棟は軽く入りそうなほど広い部屋・・・。

 

ユウリはこの部屋に慣れるのには、なかなか時間がかかりそうだと感じた。

 



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