漆黒の翼 -13-

 

 

ユウリが城に来て、約1ヶ月が経った。

その間、ユウリはずっとアドルフの指導の下、

合成や魔術を習い、徐々に城での生活にも慣れていった。

 

王立魔道士隊の隊員とも仲良くなり、

ラーサーもいつもユウリを気に掛けていた。

 

 

―――ある日の昼下がり。

ユウリは図書室で魔道書を探していた。

天井から床まである本棚がずらりと並んでいる中、

その全てにびっしりと本が並べられている。

 

「何の本を探しているんだ?」

ユウリは後方からした声に振り返った。

 

「あ・・・ラーサー様・・・元素魔法の本を

 探しているんですけど、なかなか見つからなくて・・・。」

ユウリは相変わらず優しい顔で自分を見つめているラーサーに

ドキリとしながら答えた。

 

「元素魔法か・・・それならこの辺じゃないか?」

ラーサーはユウリよりも身長が高い分、

目線が高いところに行くのか、ユウリの頭より

高い位置にある本を数冊手に取り、ユウリに見せた。

 

「あ、それです、ありがとうございます。」

ユウリがそう言って笑みを向けると

ラーサーも無言で柔らかい笑みを返した。

 

「ラーサー様も調べ物ですか?」

ラーサーはユウリが手にしている魔道書とは

別の魔道書を手にしていた。

 

「あぁ、騎士団と言っても魔法に疎くては

 勝てる戦いも勝てなくなる場合があるからな。」

 

「そうなのですか?」

 

「うん、例えば喰らってもダメージがあまりない魔法なら

 そのまま無視して切り込んでいけるけど、

 相手の魔道士が致命的な魔法を詠唱してる場合、

 そっちを止めないとこっちの態勢が崩れてしまうからな。」

 

ユウリはラーサーの言葉を少し意外に思いながら聞いていた。

 

「切りつけるだけが騎士団の仕事だと思ってた?」

ラーサーはそんなユウリの顔が可笑しかったのかククッと笑った。

 

ユウリとラーサーは自然とそのまま同じテーブルに

向かい合うように座り、それぞれ本を読み始めた。

 

 

そうしてしばらく一緒に勉強をしていると

「ラーサー。」と、女の子の声が入口の方から聞こえた。

ラーサーは本から目を離し、顔をあげた。

 

「エマ、どうしたんだ?」

 

「クレマン様がラーサーの事、捜してらしたわよ?」

エマと呼ばれた女の子はラーサーの目の前まで来ると

そう言った。

 

「クレマン様が?」

 

「うん、なんか明日の討伐の事で打ち合わせしたいからって。」

 

「そっか・・・わかった、ありがとう。」

ラーサーはエマにそう言うと、

「そういえば、ユウリとエマはまだ面識がなかったよな?

 こいつはエマ、シェーナ様の侍女をしてるんだ。

 ・・・で、こっちはユウリ、先日魔道士隊に入隊した

 魔道士だよ。」

ラーサーはユウリとエマをそれぞれ紹介をした。

 

エマはユウリににっこりと笑みを向け、

「よろしくね、ユウリ。」

と言い、ユウリもまた

「よろしくお願いします。」

とエマに笑顔で言った。

 

 

「ユウリって可愛らしい子ね。」

ラーサーとともに図書室を出たエマが少し歩いたところで

口を開いた。

 

「ん?」

 

「有翼人と魔族の混血って聞いてたからどんな子かと思ったら、

 意外に普通だったし。」

 

「あぁ・・・普段は魔力で普通の格好をしているからな。」

 

「へぇー、そうなんだ?」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「・・・ユウリと、仲良くしてやってくれ。」

しばしの沈黙の後、ラーサーはピタリと足を止めて

エマの方へと振り返った。

 

「うん・・・わかってる。」

エマは真剣な顔で言ったラーサーに少しだけ笑みを返しながら答えた。

 

 

―――翌日、王立騎士団が討伐へ出る事になった。

そして、王立魔道士隊からはユウリとアドルフの他、数人が

その討伐へ付いて行く事になった。

 

クレマンが率いる部隊と副団長であるラーサーが

率いる部隊の二手に分かれていく。

ユウリとアドルフはラーサーの部隊に配属された。

 

最近、ランディールへ出入りする商人を襲う事件が頻発している。

そしてその所為でランディールの城下町に物が入らなくなり、

国民の生活に影響が出始めていた。

今日の討伐はクレマン達はアントレア皇国方面、

ラーサー達はその逆方向のイムール共和国方面での山賊退治だ。

 

「ユウリ、本格的な戦闘は今回が初めてか?」

討伐へ向かう馬車の中、アドルフがユウリに訊ねた。

 

「はい、今までは森の中で狼や大蛇に襲われた時も

 空中に飛んで逃げていましたので・・・。」

 

「そうか・・・では、今回は余裕があれば魔術を使って

 なるべく後ろで皆の動きや騎士団の闘いを見ていなさい。

 無理はしなくていいから。」

 

「はい、わかりました。」

ユウリは正直、討伐に出ることが決まって不安に思っていた。

今まではただ逃げるだけだった。

しかし、王立魔道士隊に入ったからにはそうはいかない。

しかも、相手は動物ではなく、人間だ。

それだけにアドルフの“無理はしなくていい”と言う言葉に少し安心した。

 



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