漆黒の翼 -14-

 

 

イムール共和国へと繋がっている道の途中、

ラーサー達王立騎士団一行は囮の商人を

先に歩かせ始め、その後をゆっくりと追い始めた。

“商人”と言っても、もちろん騎士団の一人が

それらしい格好をしているだけだが。

 

 

そうしてしばらく歩いて、山賊達が出現するというポイントまで来た。

左右は森に囲まれ、周りには何もない。

人を襲うには持って来いの場所だ。

 

ラーサーは前を歩く囮のさらに先の方へ神経を集中させた。

すると案の定、山賊達が武器を片手に森の中から姿を現した。

 

「来たぞ!」

馬に乗っているラーサー達騎士団は急いで馬を走らせ、

山賊達に逃げられないよう素早く回り込んだ。

 

「っ!?」

山賊達は周りを囲まれ、完全に逃げ道を塞がれた。

そして次々と馬から降り、目の前へと迫ってきた騎士団に

剣を向けた。

 

王立魔道士隊も馬車から降りると素早く騎士団の後ろへ就き、

ユウリもまたアドルフのそばに就いた。

ほどなくして先手を取ったラーサーが山賊達に切りかかり、

他の騎士達もその後に続くと剣と剣がぶつかり合う金属音が聞こえ始めた。

 

ユウリはその金属音が響く中、とある光景を思い出していた。

それは自分が10歳になったばかりの頃に起こった出来事・・・

魔族が自分達家族を襲った時の事だった。

 

鳴り響く金属音・・・

 

流れる血・・・

 

叫び声・・・

 

そして、魔法が発動する瞬間の閃光・・・

 

それらがユウリの忘れかけていた記憶を呼び起こし、

フラッシュバックしたのだ。

 

「ユウリ、どうした?」

アドルフはユウリの様子がおかしい事に気がつき、声を掛けた。

ユウリは真っ青な顔でその場に立ち尽くしていた。

 

段々と頭の中が靄がかかったようになり、

意識が遠のいていく・・・

 

「・・・ユウリッ!」

ラーサーの叫び声が聞こえ、ユウリはハッとした。

気がつくとラーサーがユウリの前に立ち、

盾のごとく切りかかってきた山賊からユウリを庇った。

 

「ユウリ、下がるんだ!」

ラーサーは山賊に剣を振り下ろしながら言った。

そしてアドルフが素早くユウリを後ろに退かせ、

次から次へとラーサーに切りかかってくる山賊に向け、

火の魔術を放った。

そのおかげでユウリは無傷で済み、

ラーサーはまた前へ前へと出て行った。

 

 

「ユウリ、あっちにいる騎士達が毒を喰らったらしい、

 解毒してやってくれ。」

まだこの状況についていけないでいるユウリに

アドルフは詠唱の合い間に指示を出した。

 

「は、はいっ。」

その言葉にユウリはなんとか反応し、

毒に侵された騎士達を解毒していき、

怪我をしている騎士達を癒しの力で治していった。

 

やがて・・・王立騎士団達の圧倒的な力の前に山賊達は倒れた―――。

 

 

城に戻ると、ユウリはろくに食事も摂らないまま自分の部屋へと戻った。

そしてベッドの中へ倒れこむように寝転び目を閉じた。

しかし眠気などはなく、むしろ先程までの光景を思い出し、

なかなか寝付けないでいた。

 

戦闘に出ても結局、たいした事も出来ずにいた・・・。

みんなの足を引っ張ってしまったんじゃないだろうか?

王立魔道士隊に入ったのはやはり間違いではなかったのか?

 

そんな思いがずっと頭から離れない。

 

 

「ユウリ様・・・?」

ベッドから体を起こしたユウリにジョルジュが小さな声で

話しかけた。

初めての討伐から帰って来たユウリの様子が気になって

まだ起きていたようだ。

 

「眠れないのですが?」

 

「・・・うん。」

ユウリはため息をつき、バルコニーへと出た。

そして、そこから翼を広げ、下にある庭園へと降り立つと

ゆっくりと空を見上げた。

夜空には雲一つなく、綺麗な満月がぽっかりと浮かんでいる。

ジョルジュはバルコニーの手すりに降り立ち、

そこからユウリの様子をじっと見ていた。

 

 

「・・・ユウリ?」

しばらく夜空を眺めていると背後からラーサーの声がした。

 

「どうしたんだ?こんな時間にこんな所で。」

ラーサーは柔らかい笑みを浮かべながらユウリに近づいた。

 

「・・・。」

しかし、ユウリは振り向く事もせず、無言で俯いた。

 

「討伐から戻ってきてからずっと部屋に篭りっきりだって

 セシル達も心配していたぞ?」

ラーサーはユウリの様子が気になって王立魔道士隊の一員で

ユウリと仲の良い有翼人のセシルに尋ねていたのだ。

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

 

ラーサーはユウリが口を開くのを待った。

そしてしばらくの沈黙の後、ゆっくりとユウリは話し始めた。

「私・・・やっぱり、森にいた方がよかったのかもしれません・・・。」

 

「どうしてだ?」

ラーサーはユウリの口から出た言葉に驚く様子もなく、聞き返した。

 

「何もできなかったからです。」

 

「・・・。」

 

「アドルフ様に今日は無理しなくていいって言われて・・・

 それでも、いざ戦闘になったら頭の中が真っ白になって・・・

 何も考えられなくなって、足がすくんで・・・

 結局、何もできなかったどころかラーサー様やアドルフ様・・・

 みんなの足手纏いにしかならなかった・・・。」

 

「・・・ちゃんと解毒や治療してくれてたじゃないか。」

 

「あんなのは・・・」

 

「俺なんて、今日の君どころじゃなかったぞ?」

 

「・・・?」

ユウリはラーサーの言葉に首を捻った。

 

「俺が10歳の時に城に入ったのは前に話したよな?」

 

「はい。」

 

「俺は城に入ってすぐ、騎士になる為に厳しい訓練をずっと積んできた。

 だから初めて戦闘に出る事がわかった時もまったく

 怖いとは思わなかったし、緊張もしていなかった。

 ・・・けど、いざ戦いの場に立ってみると手は震えるし、足もすくんで

 まったく動くことができなかったんだ。

 ・・・で、気がついた時には自分のベッドの上だったよ。」

 

「ラーサー様が・・・?」

 

「意外か?」

 

「はい・・・だって、あんなに堂々と騎士団の皆さんを

 引っ張っていってらっしゃるし、誰よりもお強いし。」

 

「ははは、それは買い被り過ぎだよ。」

ラーサーはそう言って笑い飛ばすと、

「今だってそうさ・・・戦いの場には慣れたけど、

 やっぱり平気じゃいられない。」

と、続けた。

 

「・・・。」

そしてユウリはそのラーサーの横顔をただ見つめていた。

 

「だから、今日の君なんてまだ役に立ってた方だぞ?」

ラーサーは少し照れくさそうに笑った。

 

「それに・・・最初から無理に役に立とうなんて思わなくていい、

 大事なのは強くなりたいって言う気持ちと、日々の訓練。

 後は自分のペースでみんなに追いついて力をつけていけばいいんだ。」

 

「・・・はい。」

 

「なーんて・・・、ちょっとカッコイイ事言ってみたけど、

 実は俺がクレマン様に言われた言葉なんだ。」

 

「クレマン様に?」

 

「あぁ・・・初めての討伐が自分がぶっ倒れてる間にすっかり終わって、

 すっごく落ち込んでるときにさ、当時、副団長だったクレマン様が

 まだペーぺーの俺に声を掛けてくれたんだ。

 すごく嬉しくて、涙がボロボロ出てきて・・・

 俺もいつか絶対クレマン様みたいな騎士になるんだって、思った。」

 

「・・・。」

ユウリは当時の事を思い出しているであろうラーサーの横顔を

黙ってまま、じっとみつめていた。

 



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