漆黒の翼 -15-
しばらくの沈黙の後、ユウリは再び口を開いた。
「あの・・・ラーサー様は、どうして騎士になろうとおもわれたのですか?」
「大切な人達を守る為。」
ラーサーはユウリの問いに迷う事無く即答した。
「大切な人達・・・。」
「あぁ、国王様や王妃様、シェーナ姫様・・・それに城のみんなや、
城下町の人々・・・すべて。」
「大切な人がたくさんいるんですね?」
ユウリはクスッと笑った。
「あぁ、俺を支えてくれている人達、全員。
その人達を少しでも俺が守ることができればって、思ったから。
・・・だから、簡単に“殺られる”ワケにはいかないんだ。」
「・・・。」
「こっちが隙を見せれば容赦なく相手は切り込んで来て
簡単に殺られてしまう。
だから俺は大切な人達を守る為に“殺られる前に殺る”って、
考える事にしたんだ。」
「“殺られる前に殺る”・・・。」
「言葉は悪いけどな。」
ラーサーはユウリの顔をちらりと見るとククッと笑った。
「・・・でも・・・そうですね・・・、そのくらいの気持ちでいないと
ダメなんですね・・・。」
ユウリはラーサーの言葉を深く受け止め、静かに頷いた。
「ところで、ラーサー様はこんな時間までお仕事ですか?」
ユウリは討伐で疲れているはずのラーサーが
もう日付が変わろうとしている時間まで起きている事を少し不思議に思った。
「あぁ、さっきまでクレマン様達と一緒に
今日の討伐について話していたんだ。」
「こんな遅くまでですか?」
「うん、今日はクレマン様と俺の部隊に別れて行ったから
お互いの部隊の報告会をね。
山賊達の人数や構成、どんな魔法を使っていたか、
後はこちらの怪我人の程度とか。」
ラーサーはユウリにまるで疲れている素振りも見せないでいる。
「そんな事よりユウリ・・・」
「はい?」
「もしかして、バルコニーから飛び降りたのか?」
ラーサーはユウリが本来の姿をしている事と、
そしてここがユウリの部屋の真下に位置する事、
ユウリの部屋を見上げ、バルコニーの扉が
開けっ放しになっているのが見えたのか
ユウリの方に視線を戻しながら言った。
ちなみに、ジョルジュは気を使ってか、いつの間にか
部屋の中へと戻っていた。
「あ・・・はい・・・。」
ラーサーはユウリがそう返事をするとククッと笑い、
「お転婆さん、早く寝ないと肌が荒れても知らないぞ?」
と言った。
そして「おやすみ。」と柔らかい笑みを向けると踵を返し、
自室へと戻っていった。
その夜、ラーサーの部屋からは明け方近くまで灯りが消えることはなかった。
―――翌朝。
ユウリはセシルと共に朝食を摂り終え、図書室に向かった。
昨日の山賊達が使っていた魔法を調べるためだ。
窓際の席に座り、それぞれ魔道書を片手に調べていると
窓からラーサーの姿が目に入った。
騎士達が剣や弓の練習をする訓練場で仲間の騎士達と練習をしている。
「そういえばさ、ユウリ。」
セシルはちらりとラーサーを見た後、まわりに聞こえないように
小声でユウリに話しかけた。
「?」
「昨夜、ラーサー様と話したの?」
「え?」
「なんか元気出たみたいだから。」
セシルはユウリににやりと笑って見せた。
「え・・・別に・・・」
ユウリはセシルから目を逸らしながら俯いた。
「ふーん・・・昨夜は食事もしないで部屋に戻っちゃったのに
今朝はいつも通り食べてたし、
ラーサー様に元気をもらったのかと思ったけど?」
セシルはユウリの顔を覗き込んだ。
「で、でも・・・たいした事じゃ、ないから・・・。」
「あ、やっぱ話したんだ?」
「え・・いや、あ・・・うん。」
「ユウリってわかりやすいねー。」
セシルはクスクスと笑った。
ユウリとセシルがそんな会話をしているとは
まるで思ってもいないラーサーは汗をかきながら
真剣な顔で剣を振っている。
ユウリはその表情をじっと見つめていた。
ラーサーは誰よりも強い。
王立騎士団の中でも・・・いや、きっと他国の騎士達よりも。
しかし、ラーサーは毎日訓練を怠らない。
それは剣だけではなく、弓や体術、格闘術、魔術に関しても。
全てにおいていつも真剣に取り組んでいる。
「ラーサー様って、ゆっくりなさる事ってあるのかしら?」
ユウリと同じ様に窓からラーサーの姿を眺めていたセシルが口を開いた。
「だっていつも真剣に何かをやってらっしゃるじゃない?
疲れた顔も、辛い顔もみんなの前で見せないし。」
「そうね・・・。」
確かにラーサーは人前で疲れた表情や素振りを見せない。
仲間の騎士達と楽しそうに談笑する事はあっても
哀しい、辛い・・・と言った感情は表には出さないのだ。
「副団長様ともなるとそういうのは部下の前で見せられないのかもね。
あんなお若いうちから偉くなるのも大変・・・。」
セシルは苦笑いした。
ユウリは改めてラーサーがすごい人物だという事を感じた。
それはただ強いだけで副団長をやってのけている訳ではないという事。
初めての戦闘での失敗からここまでになる為に
一体どれほどの努力が必要だったか・・・。
「・・・。」
ユウリは窓から見えるラーサーの姿をもう一度だけ見ると、
魔道書へと目線を戻した。
今はただ強くなる事を考えよう・・・。
―――昼過ぎ、ユウリが自室に向かっていると
騎士団長のクレマンに呼び止められた。
「ユウリ、すまないがコレをラーサーに渡してくれないか?」
クレマンはユウリに何かの書類を手渡した。
「今、自室にいるはずだから、よろしく頼むよ。」
「はい、わかりました。」
ユウリはクレマンから書類を受け取るとラーサーの部屋へと向かった。
・・・コンコン。
ユウリはラーサーの部屋の前に立ち、ドアをノックした。
しかし、中からは何も反応がない。
(クレマン様は部屋にいるはずだとおっしゃっていたのに・・・)
「ラーサー様?」
ユウリは部屋の中に向かって呼びかけてみた。
だが、それでもまったく何も反応がない。
仕方なく書類を置いていこうとドアを開けると、
ベッドの中で眠っているラーサーがいた。
「失礼しまーす・・・。」
ユウリは小さな声で言いながら部屋の中に入った。
ラーサーの部屋はユウリの部屋と同じ造りになっている。
それでも同じ部屋だとはまったく感じないのは
中に住んでいる住人が違うというのもあるが、
揃えられている家具などもユウリの部屋にある女の子らしいものではなく、
ラーサーのイメージにぴったりなシンプルでシックなものだからだろう。
ユウリはたくさんの書類や本が積み上げられているデスクに近づき、
書類を置くと再びラーサーの方に視線を向けた。
(キレイな寝顔・・・。)
初めて見るラーサーの寝顔にドキリとした。
長い睫毛と少しだけ開いた唇からは小さく寝息が聞こえている。
「・・・う、ん・・・。」
ラーサーが寝返りを打ち、体にかけてあったシーツがはだけた。
ユウリはシーツをかけなおそうとベッドに近づいた。
そして、ラーサーの体にシーツをかけた瞬間、
てっきり眠っていると思っていたラーサーが素早くユウリの手首を掴み、
組み敷いた。
「・・・っ!?」
ユウリは驚きのあまり声も出せず、ラーサーを見上げた。
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