漆黒の翼 -16-
「・・・ユウリッ!?」
ラーサーは組み敷いた相手の姿を認めると
押さえつけていた腕の力を弱くした。
「す、すまない・・・てっきり、侵入者かと思って・・・」
ラーサーはバツが悪そうに言った。
「あ・・・いえ・・・。」
ユウリは瞠目し、そう答えるのがやっとだった。
すると、ラーサーとユウリの間にビミョーな空気が流れる中、
不意にドアの方から声が聞こえた。
「あはは、またやっちゃった?」
「・・・エマ。」
ラーサーはユウリを押し倒しているかのように見える
状況を驚くこともなく、部屋の入口で見ているエマに視線を向けた。
そして、マズいところを見られたといった風に顔を顰めた。
「こんな守りの堅いお城に侵入者なんてそうそういる訳ないのにね?」
エマはクスクスと笑いながら部屋の中に入ってきた。
「常に警戒心を持っておくのは騎士として当然だろ?」
ラーサーはそう言うと、ユウリの腕を引き上げた。
「だからって、毎回“侵入者”に間違えられるこっちの身にもなってよね?」
「・・・すまん・・・て、ところでなんか用か?」
「あー、ルイが『ラーサー様、まだ昼食を摂ってらっしゃらないけど、
お忙しいのかしら?』って心配してたから、呼びに来て見たの。」
ルイとは、密かにラーサーに想いを寄せている食堂で給仕係をしている女の子だ。
「そうか。」
「こんな時間に寝てたって事はどうせまた、
昨夜も討伐の報告書を明け方まで書いてたんでしょ?」
「ん、まぁな。」
「副団長様も大変ねぇー、あ、そうだユウリ、
ルイがパンケーキ焼いたから一緒にお茶しましょうって言ってたよ。」
「あ、はい。」
ユウリはエマにそう言われ、ハッとした。
そして部屋を後にする時、
「あ、あの・・・クレマン様からラーサー様にお渡しするよう
書類を預かったんです。
デスクの上に置いておきましたのでよろしくお願いします。」
と言い、エマと食堂に向かった。
「びっくりしたでしょ?・・・さっき。」
ラーサーの部屋を出た後、エマが苦笑いしながら言った。
「はい・・・。」
「ぐっすり熟睡してると思ってても少しの物音とか、
体に触れられると目が覚めちゃうみたい。」
エマはまるでそんな事にはもう慣れたかのように言った。
「じゃ、いつも眠りが浅いって事がですか?」
「うん、でも本人はそれで十分疲れが取れてるって言うから
不思議よねー?」
エマはクスクスと笑った。
「ところで、ユウリのご両親のお墓ってどうしているの?」
「前に住んでいた丸太小屋の近くにあります。」
「それなら明日、アントレア皇国にラーサーと一緒に両親のお墓参りに行くから
ユウリも一緒に行こう?」
「はい・・・エマさんもご両親を亡くされているのですか?」
「うん、私もだけどラーサーもよ。」
「ラーサー様も・・・?」
「私とラーサーはね、元々アントレア皇国の城下町で暮らしていたの。
家が隣同士で、所謂幼馴染みってやつ。
・・・それがね、私が9歳でラーサーが10歳の時に、私達の家の周辺が
窃盗団に襲われてね、その時に二人とも両親を亡くしたの。
それでその時、援護に来ていた王立騎士団の方々に私とラーサーは
助けていただいたの。
・・・で、それからはずっと二人ともお城の中。
半年に一度、二人でアントレア皇国にお墓参りに戻っているのよ。」
「そうだったんですか・・・。」
ユウリはラーサーとエマもまた自分と同じ様に辛い経験をしていることに
少し驚いた。
普段の二人からはそんな事は微塵も感じさせないからだ。
―――翌日。
午前中からユウリとラーサー、エマの三人とジョルジュは
馬車でアントレア皇国方面へと出かけて行った。
出発して2時間近くが経ち、小高い丘の上に馬車は到着した。
アントレア皇国の城下町が一望できる風通しの良い場所。
そこにエマの両親の墓とラーサーの両親の墓が並んでいた。
ラーサーとエマ、そしてユウリ、ジョルジュは
それぞれのお墓に花を手向けると静かに跪き、祈りを捧げた。
その時、ユウリはラーサーの表情に一瞬、ハッとした。
いつも人前では決して見せることのない表情・・・。
それはとても哀しそうでまるで両親が亡くなった時の事を
思い出しているかのようだった。
ユウリはそんなラーサーの横顔を黙ったまま見つめていた。
「・・・行こうか。」
祈りを捧げた後もしばらくお墓の前でじっと
動かないでいたラーサーが立ち上がった。
そして、再び馬車に乗り込み、ユウリが以前住んでいた丸太小屋を目指した。
―――30分余り馬車で戻り、ユウリが一ヶ月前まで住んでいた
丸太小屋が見えてきた。
ユウリの両親の墓は泉のすぐそばにあった。
名もなき墓石・・・大きな平たい岩の周りに
たくさんの色とりどりの花が咲き乱れていた。
おそらくユウリが植えたものだろう。
ラーサーはユウリとエマとともに墓の前に跪くと、
目を閉じて深い祈りを捧げた。
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