漆黒の翼 -2-

 

 

「あ・・・、ここです。」

ユウリを助けた場所からさらに奥へ行ったところに

小さな丸太小屋があった。

そしてユウリはその丸太小屋の前でラーサーに馬を止めさせた。

 

「こんな森の奥に住んでるのか?」

ラーサーはユウリがてっきり城下町に住んでいると思ったのか、

驚いた表情をしていた。

 

「以前はアントレア皇国の城下町に住んでいたんですけれど

 両親が亡くなってからはここに住んでるんです。」

 

「それじゃあ・・・今、一人でここに・・・?」

 

「はい・・・あ、でも、正確には一人じゃないんです。」

 

「・・・?」

ユウリの言葉に首を捻ったラーサーだったが、

その意味がわかるのにそう時間はかからなった。

 

まだ歩くことができないユウリを抱きかかえ、

丸太小屋の中へ連れて行くと、どこからか

「ユウリ様っ、どうされたのですかっ!?」

と声が聞こえた。

 

「あ・・・た、ただいま、ジョルジュ。」

ユウリはその声に少し慌てながら応えた。

 

ラーサーは丸太小屋の中を見回した。

ベッドとテーブル、イス、チェスト・・・

後は・・・

部屋の隅っこにある止まり木からユウリの目の前に

飛んできた一羽のシロフクロウ。

それ以外は何もないし、ラーサーとユウリ以外、

誰もいない。

「誰と話してるんだ?」

ラーサーはユウリが誰に「ただいま。」と言ったのか

わからなかった。

 

「・・・ユウリ様。このお方は・・・?」

 

「・・・え・・・?」

ラーサーは目の前にいるシロフクロウから

聞こえた声に驚いた。

(いや・・・まさか・・・な。)

 

「ジョルジュ、この方はラーサー=シルヴァン様よ。

 先ほど、私が森の中で狼達に襲われたところをこの方が

 助けてくださったの。」

 

「狼に・・・?・・・そうですか。」

 

「うわっ!?・・・フクロウがしゃべった・・・?」

ラーサーはシロフクロウが喋っていることに

度胆を抜かした。

 

「ラーサー様。こちらは私と一緒に暮らしているジョルジュです。」

ユウリはまだ驚いたままの表情のラーサーに至って“普通”に

シロフクロウのジョルジュを恰も人間のように紹介した。

 

「ラーサー様、ユウリ様が危ないところを助けていただき、

 ありがとうございました。」

そして、そのジョルジュもまた、“普通”にラーサーに礼を述べた。

 

「あ・・・いや・・・たいした事ではない。」

ラーサーはユウリからジョルジュを紹介されても

まだ“フクロウが喋った”という事に驚きを隠せないでいた。

 

「ラーサー様・・・そんなに見られては・・・」

ジョルジュが少し気恥ずかしそうに言った。

ラーサーがまじまじとジョルジュを見つめていたからだ。

そんな二人・・・いや、一人と一匹の様子を

傍で見ていたユウリはクスッと笑った。

 

「まるで・・・人間みたいだな。」

 

「ラーサー様が驚くのも無理ありません。

 ジョルジュには特別な能力があるんです。」

 

「特別な能力・・・?」

 

「はい、と言っても・・・喋れるだけですけど。」

 

「喋れるだけって・・・それ・・・すごい事だけど?」

 

「あはは、そうですね。」

 

ラーサーは口元に手を当てて笑ったユウリの笑顔にドキッとした。

「あ・・・と、それじゃ、俺はそろそろ帰るよ。」

 

「えっ!?・・・まだ、何もお礼をしていないのに・・・」

 

「お礼なんて・・・そんな、王立騎士団の騎士として

 ・・・というより、人として当たり前の事をしただけなんだから。」

 

「・・・でも・・・」

 

「いいから、いいから。・・・あ、そうだ。

 それとこれ、忘れるところだった。」

ラーサーは羊皮紙に包まれた何かをユウリに手渡した。

 

「薬草だよ。それを傷口にあてておくと

 治るのが早くなるから使うといい。」

 

「え・・・あ、ありがとう・・・ございます・・・。」

ユウリは一瞬、受け取るのを拒もうとしたが、

たとえ断ってもきっとまたラーサーに言われるがまま、

受けられざるを得ない気がしてそのまま素直に受け取ることにした。

 

「それじゃ。」

ラーサーはユウリとジョルジュに笑みを向けると

踵を返し、丸太小屋を後にした。

 



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