漆黒の翼 -5-
―――数日後。
ラーサーは再び森を訪れていた。
しかし、ユウリに会う為ではない。
城下町に出没したという、盗賊の一味を追って来たのだった。
その盗賊達はあらゆる町に現れては暴れ回り、
すでに隣のアントレア皇国でも被害が続出していた。
そして最近、この森にアジトを移し、
ランディール王国の城下町を荒らし始めたのだった。
ラーサー達、王立騎士団一行が森の中で盗賊団のアジトを探していると
上空からジュルジュの声がした。
「ラーサー様。」
ジョルジュはラーサーの目の前まで降りてくると
「どうかされたのですか?」
と訊ねた。
「ジョルジュか・・・、ちょうどいい所で会った。
少し尋ねたいことがあるのだが・・・。」
「はい、なんでしょうか?」
「最近、城下町を荒らし回っているという盗賊のアジトが
この森のどこかにあるはずなんだが・・・心当たりはないか?」
「・・・盗賊ですか・・・それでしたらこの先、
かなり奥に行った所に洞窟がございます。」
「洞窟・・・?」
「はい、その近くで数日前、数人の男達がいたのを見ました。
身なりも賊のようでしたし・・・、
それに数人が隠れることの出来る場所といったら、
この森の中ではおそらくその洞窟だけかと・・・。」
「そうか・・・では、すまないがジョルジュ、案内してくれないか?」
「はい、畏まりました。」
ジョルジュはそう言うと、羽根を広げ、ラーサー達より
少し高い位置まで飛び立ち、「こちらです。」と、誘導し始めた。
ラーサーはジョルジュに続き、他の騎士達も
梟が喋った事に驚きながらも後に続いた。
「あそこです。」
ジョルジュは鬱蒼とした木々の中、ぽっかりと口を開けた洞窟の
入口から少し離れたところに降り立った。
「なるほど・・・確かに、あそこなら数人が隠れるには十分だな。」
ラーサーはその薄気味悪い雰囲気の洞窟の中を伺うように眺めた。
しかし、真っ暗で中に人がいるかどうかもわからない。
「ありがとう、ジョルジュ。」
「いえ。」
「ジョルジュ、ユウリに今日は家から出ないように伝えておいてくれ。」
「はい、畏まりました。ラーサー様や騎士団の皆様もお気をつけて。」
「あぁ、ありがとう。」
「では・・・。」
ジョルジュは再び空高くまで舞い上がると風に乗って来た道を引き返していった。
「ラ、ラーサー様・・・今の梟は・・・?」
まるで人間の様な言葉遣いをし、道案内までやってのけたジョルジュが去った後、
レイモンが目をパチパチとさせながら口を開いた。
「あぁ、あのシロフクロウはジョルジュといって、この間、
泉で会った娘を憶えているか?」
「確か・・・ユウリという名前の・・・」
「そう、そのユウリと一緒に暮らしている梟で、
人間の言葉が喋れるらしい。」
「はぁ・・・。」
レイモンはラーサーが説明してもまだいまいち納得がいかないような返事をした。
「それよりも・・・今はこっちだ。」
ラーサーは洞窟の入口に視線を移した。
そして、馬を降りるとゆっくりとなるべく音を立てないように洞窟に近づき、
中の様子を伺うように目を凝らし、耳を澄ませた。
中からは微かに人の声が聞こえ、蝋燭の灯りがぼんやりと見えた。
「ここで間違いない。・・・さて・・・と、作戦はどうするかな・・・。」
ラーサーは仲間達のところへ戻ると顎に手を当て、少しの間考え込んだ。
「・・・よし、燻り出すか。火を熾して洞窟の中に向けて煙を送り込むんだ。」
ラーサーと騎士達は落ちている枝や枯葉を集め、
火を熾し、洞窟の中に煙を送り始めた。
しばらくすると洞窟の中から、咳き込む声が聞こえ始めた。
そしてそれは段々と近づいてきていた。
「・・・来るぞ!」
ラーサーと騎士達は剣の柄に手を掛け、
洞窟の入口から少しだけ離れると戦闘態勢に入った。
盗賊達は咳き込みながら洞窟から出てくると
すぐにラーサー達に取り囲まれている事に気がついた。
「く・・・っ、王立騎士団か・・・っ!?」
煙に巻かれながらも騎士団が持っている盾に刻まれた紋章、
鎧や装備などでわかったようだ。
しかし、おとなしく素直に捕まる気は毛頭ないらしく、
素早く短剣を抜き、身構えた。
「行くぞっ!」
ラーサー達は盗賊達の目が煙が沁みてまだよく見えていないうちに
先制攻撃を仕掛けようと一斉に切りかかった。
だが、そこは“さすが盗賊”・・・というべきなのか、
身のこなしが素早く、負けてはいない。
剣で攻撃してくる騎士団に対し、短剣にも拘らず、
ひらひらと動いて隙を突いてくる。
それでも人数的にも戦力的にも勝っている騎士団は
後方から弓、前方では剣で攻撃しながらやがてほとんどの盗賊達を倒し、
残るは幻術師の盗賊一人となった。
「くそっ!」
幻術師の盗賊はラーサー達に取り囲まれると、
素早い詠唱で何かを唱え、持っていた杖から怪しい光りを放った。
その怪しくどす黒い光りは騎士団の前列にいたラーサー達数人を包み込み、
そして体の中へと沁み込む様に消えていった。
しかし、ラーサーだけは最前列にいたにも拘らず、
そのどす黒い光りを跳ね返した。
「・・・何っ!?」
幻術師は光りを跳ね返したラーサーに驚き、
カットインで切り込んできたラーサーの攻撃を避けきれず、
地面に崩れ落ちた。
幻術師の最期を見届け、ラーサーは仲間の方へと振り返った。
すると、ラーサーの目に入ってきたのは、その場に蹲り、
苦痛な表情を浮かべている仲間の姿だった。
「・・・っ!?」
後方にいた騎士達に変わった様子はない。
しかし、幻術師が放ったあの怪しい光りを受けた騎士達が
皆、顔が真っ青になり、倒れこんでいる。
一体、何が起こったのか・・・?
あのどす黒い怪しい光りはなんだったのか・・・?
考えられるのは毒か呪い。
毒であれば毒消し薬でなんとかなりそうだが、
呪いだとすると・・・厄介だ。
ラーサーは後列にいた騎士達とともに倒れこんでしまった騎士達に
毒消し薬を飲ませた。
しかし・・・しばらく経っても騎士達は相変わらず苦しい表情を浮かべ、
倒れたままだった。
毒消しが効かない・・・。
・・・という事は、毒ではなくやはり呪いなのか・・・?
「・・・くそっ!」
ラーサーは地面を殴りつけた。
そして、しばし考えを巡らせた後、
何か思いついたように立ち上がり、
「・・・ちょっと、ここで待機していてくれ。」
と他の騎士達に言い残し、急いで馬に飛び乗った。
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