漆黒の翼 -8-

 

 

「・・・う・・・ん・・・。」

 

「ユウリ、大丈夫か?」

ユウリが目を覚ますと、ベッドの横にいたラーサーは

心配そうにそっと声を掛けた。

 

「・・・ラーサー・・・さ、ま・・・?」

ユウリはまさかラーサーがいるとは思っても見なかった。

そして、自分が人間の姿をしていない事にハッと気がつくと

慌てて、姿を変えようとした。

・・・が、しかしまだ魔力が十分に回復していないユウリは

本来の姿から変わる事はできなかった。

 

「ユウリ様・・・まだ、無理です・・・。」

 

「・・・。」

ジョルジュの言葉にユウリは俯き、哀しそうな表情を浮かべた。

するとラーサーは「・・・ユウリ・・・すまなかった。」

と言って、ユウリの両手を包み込むように握った。

 

「えっ・・・?」

ラーサーの口から出た言葉に驚き、

ユウリは思わず顔をあげた。

 

「・・・ジョルジュから聞いた・・・。」

 

「そう、ですか・・・。」

 

「俺が無理を言ったばっかりに・・・その・・・」

 

「・・・もう、いいんです・・・。」

 

「でも、ユウリ・・・」

 

「・・・もしも、あのまま行かなかったら私・・・

 きっと後悔してました・・・だから・・・」

ユウリはそう言うと少しだけ微笑んだ。

しかし、ラーサーの目には・・・いや、ジョルジュから見ても

無理をして笑ってみせているように思えた。

 

「・・・。」

ラーサーは無言のまま、ユウリをじっと見つめた後、

「今日は本当にありがとう・・・また来る・・・。」

と言い、丸太小屋を後にした。

 

 

―――その翌日。

ユウリは泉へと水汲みに出掛けていた。

 

「ユウリ。」

不意に名を呼ばれ、振り返るとラーサーが近づいてきた。

 

「ラーサー様・・・。」

 

「ジョルジュに聞いたらここだって言ってたから・・・

 もう寝てなくて平気なのか?」

 

「はい、昨日ゆっくり休みましたから。」

ユウリのその言葉を裏付けるように、ユウリはいつものように

人間の格好をしていた。

 

「そうか・・・。」

ラーサーは少しだけ安心したように言うと、

ユウリが持っていた水桶を受け取った。

 

「あ・・・ラーサー様、大丈夫ですよ?

 いつも重い物は魔力で浮かせて持ってますから

 実は全然重くないんです。」

 

「・・・そんな事もできるのか・・・?」

ユウリが苦笑いしながら言った種明かしに

ラーサーは少し驚いた。

 

 

丸太小屋に着き、ユウリはラーサーを中に入れると

思い出したように言った。

「・・・ところで、ラーサー様。

 今日はどうされたのですか?」

 

「ん?あぁ・・・実はランディール王から書簡を預かってきたんだ。」

 

「私に、ですか?」

 

「あぁ。・・・それと昨日、騎士団に協力してくれたお礼も預かっている。」

ラーサーはそう言うと、ランディール王からの書状をユウリに渡し、

さらにずっしりと重そうな皮袋をテーブルの上に置いた。

 

「お礼だなんて・・・そんな・・・。」

ユウリは書状を受け取り、中を開いた。

 

 

「・・・っ!」

 

「ユウリ様?」

書状を読み終え、驚いた顔のユウリにジョルジュが声を掛けた。

 

「・・・ラ、ラーサー様・・・これ・・・」

ユウリは目の前のにテーブルに置かれた皮袋に視線を移した。

 

「金貨100枚。ランディール王からの礼金だよ。」

 

「・・・こんなにたくさん・・・受け取れませんっ!」

 

「なぜ?」

 

「だって・・・私は当たり前の事をしただけです・・・っ、

 ・・・自分に出来る事を・・・。」

 

「そう言われてもなぁ・・・俺も国王様から預かった物を

 そのまま持ち帰る訳にはいかないし・・・

 それに、君は“当たり前の事”だと言ったけれど、

 騎士団を救ったというのは大変なことなんだぞ?」

 

「はぁ・・・。」

 

「金貨はいくらあったって困る物じゃない。

 森で暮らしていると言ったって、まったく使わない訳じゃないだろ?」

 

「はい、それは・・・そうですけど・・・。」

 

「ユウリ様、ここはありがたく受け取られては?」

 

「ほら、ジョルジュもこう言ってるぞ?」

 

 

「・・・わかりました・・・では、ありがたく・・・。」

ユウリは少しの間考え、そう言うとペコリと頭を下げた。

 

「いや、礼を言うのは俺の方だ・・・君にはいくら礼を言っても

 足りないくらいだ・・・。」

 

「そんな・・・」

 

「・・・と言うわけで・・・後、これ・・・騎士団の皆から。」

ラーサーはテーブルの上に今度はいろいろな食材を並べ始めた。

 

「え・・・あ、あの・・・ラーサー様・・・?」

 

「金貨にしようかどうしようか皆で話し合ったんだが、

 国王様からも金貨が出される事はわかっていたし、

 それだと受け取りづらいと思ってね・・・

 それに、君はまだ寝込んでるままだと思っていたから。」

 

「・・・すみません・・・そんなに気を使っていただいて・・・」

 

「いや・・・騎士団として当然の事だ。」

ラーサーは“当然の事”と言ったが、その目はとても優しく、

ユウリを見つめていた。

 



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