漆黒の翼 -9-

 

 

―――それからほぼ毎日。

ユウリの所にラーサーが来るようになった。

なるべく時間がある時に僅かな時間でも

ラーサーはユウリに会いに来ていた。

 

そんなラーサーにユウリは徐々に心を開いていった・・・。

 

 

そうして、一ヶ月が過ぎた頃―――。

 

泉のほとりで二人並んで座っている時、

「・・・あの・・・ラーサー様。」

と、ユウリが思い切ったように口を開いた。

 

「ん?」

 

「・・・ラーサー様は・・・私の本当の姿を見ても・・・その・・・

 平気なのですか・・・?」

 

「・・・。」

ラーサーはユウリの口から出た言葉に少し驚いた。

しかし、それと同時にいつかはそう聞かれる事も予測していた。

 

「普通の人は・・・私の姿を見た途端、怖がって

 離れていきます・・・。」

ユウリは少し俯き哀しそうな顔をした。

 

「・・・俺も・・・」

 

「・・・えっ?」

ユウリはハッと顔をあげた。

 

「俺も・・・そんな人間だと・・・?」

ラーサーは真っ直ぐにユウリを見つめた。

 

「・・・。」

 

「確かに・・・最初は驚きもした。

 ・・・けど、・・・君は“君”だ。」

 

―――君は“君”・・・。

 

「・・・っ。」

ユウリはその言葉を聞き、思わずラーサーを見つめ返した。

 

「ユウリ・・・。」

ラーサーは見つめ返してきたユウリの頬をそっと包み込むと

優しく指で涙を拭った。

ユウリはその感触ではじめて自分が泣いているんだとわかった。

 

「・・・。」

ラーサーは何も言わずユウリの肩を抱き寄せた。

そしてユウリもラーサーの胸に顔を埋め、泣き始めた。

両親が亡くなってから、こうして誰かの胸で泣く事などなかった。

泣く時はいつも一人で・・・ジョルジュも傍にいる事しかできなかったからだ・・・。

 

 

―――次の日。

ユウリがいつものようにラーサーを丸太小屋の中に招き入れると、

「ユウリ、今日はランディール王の使いとして来た。」

とラーサーが真剣な顔つきで口を開いた。

 

「国王様の・・・?」

 

「あぁ・・・、まずはこれを読んで欲しい。」

そう言うとラーサーはユウリにランディール王からの書状を手渡した。

 

「・・・。」

ユウリは少し不安に思いながら、ラーサーから書簡を受け取った。

ジョルジュは黙ったまま、二人の様子を伺っていた。

 

 

「・・・っ!?」

書簡に目を通し、内容を把握したユウリは目を見開いた。

 

「・・・これは・・・どういう・・・」

ユウリは驚いた表情のままラーサーに視線を移した。

 

「その書状に書いてある通りだ。」

 

「ユウリ様・・・どうされたのですか?」

ジョルジュはユウリの様子に首を捻った。

 

「・・・こ、国王様が・・・」

 

「・・・?・・・国王様はなんと・・・?」

 

「・・・国王様が・・・私を・・・王立魔道士隊に

 任命したいと・・・。」

 

「・・・っ!?」

ジョルジュは驚き、ユウリ達の目の前まで飛んでくると

テーブルの上に広げられた書状に目を移した。

 

「ラーサー様・・・これは・・・」

やや放心したように俯いているユウリの代わりに

ジョルジュがラーサーに訊ねた。

 

「そこに書いてある通り、国王様はユウリの王立魔道士隊への入隊を

 望んでおられる。・・・しかし、これはあくまで国王様の希望で

 強制や命令などではない。」

 

「・・・もし、入隊を拒んだ場合はどうなるのです?」

 

「何も・・・何も変わりはしない・・・。

 今の生活のままだよ。」

 

「・・・。」

 

「ただ、またこの間のような事が起こった場合、

 手を借りる事もある・・・と言うことだ。」

 

「・・・ラーサー様は、どのように思われているのですか?」

 

「もちろん、俺も国王様と同じ考えだ。」

 

「では・・・入隊を望まれていると・・・」

 

「あぁ・・・、王立騎士団の騎士として・・・

 だが、それは俺個人が望んでいる事でもある。」

 

「どういう意味・・・ですか?」

ユウリはラーサーの顔をゆっくりと見上げた。

 

「・・・ユウリは一生、このままこの森の中で暮らすつもりなのか?」

 

「え・・・?」

 

「このままここにいれば・・・自由な暮らしができるだろう・・・

 だけどその反面、君はずっと人の目を恐れて暮らさなければならない・・・。」

 

「・・・。」

 

「だが、城に入れば君を特異の目で見たり、好奇な目で見る者はいない。

 最初は皆、驚くし、今までのように完全な自由ではいられなくなるだろうけれど・・・。」

 

「・・・。」

 

「王立魔道士隊の中には、有翼人もいる。」

 

「でも・・・私のように黒い翼ではないのでしょう・・・?」

 

「・・・あぁ。」

ラーサーがそう返事をすると、ユウリはプッと吹き出した。

「ラーサー様って・・・正直なお方ですね。」

ユウリはクスクスと笑いながらラーサーを上目遣いに見上げた。

 

「どうしてだ?」

ラーサーはユウリの反応に首を傾げた。

 

「だって・・・嘘でも私と同じ様に黒い翼を持った者もいると言えば、

 簡単に私を連れて行く事もできるでしょう?」

 

「・・・フッ、・・・確かに、そうだな。」

ラーサーは少しだけ苦笑いした。

 

「嘘をついて君を城へ連れ帰る事なんて造作もない。

 もっと言えば・・・力ずくだって君をここから連れ出すこともできる・・・。」

 

「そうしないのは・・・なぜ、ですか・・・?」

 

「そうしたところで君を傷つけるだけだからだ。」

 

「・・・。」

 

「・・・3日後にまた来る・・・返事はその時に聞くよ。

 それまで、ゆっくりジョルジュとも話し合って考えておいてくれ。」

 

「はい、わかりました。」

 

 

ラーサーが帰った後、しばらく考え込んでいるユウリに

ジョルジュが声を掛けた。

「ユウリ様・・・どうされるおつもりですか・・・?」

 

「・・・わからない・・・、まだ突然の事で・・・」

 

「そうですね・・・。」

 

「ジョルジュは・・・どう思う・・・?」

 

「私は、ユウリ様がご自分でお決めになった事なら、

 どこへでも付いて行きます。」

 

「・・・ありがとう・・・。」

ユウリは優しい目をして言ったジョルジュに少しだけ笑みを返した。

 



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