X Beat 〜クロスビート〜 −第一章・42−
――明後日。
今日は学園祭の代休。
せっかくなので、朝は思いっきり寝坊してやろうと昨夜目覚ましをセットしないで寝たら、
本当に思いっきり寝坊をした。
「おわっ!? もう十一時……っ?」
すっかり寝過ぎた。
寝過ぎて逆に頭がボーッとしている。
いや、腹が減ってるからか?
カーテンを開けると太陽の光が一気に差し込んで来た。
「超天気……」
◆ ◆ ◆
ブランチを済ませて先日の学園祭ライブの事をブログに書こうと管理ページにアクセスすると、
俺以外のメンバーは既に記事をアップしていた。
「みんな早いなぁー。てか、俺が遅いのか?」
一番乗りは美穂。
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学園祭ライブ
テーマ:美穂のここだけの話
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まず最初に、今回の事でみんなに迷惑を掛けてごめんね。
でも、ライブが中止にならなくて良かった。
最初、詩音が中止にするって言った時はもう本当にどうしようかと思った。
詩音てあれで結構頑固だからね(´ー`;
だけど、その後考えを変えてくれたみたいでライブをやるって言ってくれた時はすごく嬉しかった♪
アレンジとバンドの雰囲気もそうだけど、バンド名も
「美穂がいないのに“Happy-Go-Lucky”は名乗れない」って言って変えてくれたのにはびっくりした。
なんか全然別のバンドを観ている気分で楽しめた。
急に私が出られなくなったのに、たった一日で穴を埋める事が出来るなんて、
やっぱりうちのメンバーは凄い!<( ̄^ ̄)>
そんな優しくて強くて凄いメンバーと一緒にやれる私は凄く幸せ者です!ヽ(≧▽≦)ノ
みんなありがとう!
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次は美希。
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お疲れ様!
テーマ:美希の独り言
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みんな学園祭ライブに来てくれてありがとう!(´∀`)
美穂が出られなくなって一度は中止って事になったけれどやれてよかった!
今回のアレンジは詩音の提案で、どうせならロック要素を強くしようって事であんな感じになりました。
どうだったかな?
一日でアレンジを変えるのは大変だったけど私的には結構新鮮で楽しかったよ♪
これで受験に専念出来ます。
今度、みんなに会う時は大学生としてかな?
ライブは当分出来ないけれど、ブログは息抜き程度にアップしまーす!(´∀`)ノ
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その次は千草。
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終わった〜!
テーマ:千草通信
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とうとう高校最後の学園祭ライブが終わっちゃいました( p_q)エ−ン
来てくれたみんな、ありがとう!
あたしと美希と愛莉の三人が受験生なので、大学に合格するまでバンドがどうなるかわからないけれど、
なるべく早く復活したいと思います!
けど、浪人したら……;
そうならないように努力しまっす!(`・ω・´)ゝ
あ、ブログは今まで程頻繁にはアップ出来ないけれど、このまま継続するのでまた遊びに来てね(´∀`)ノシ
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そして愛莉。
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みんなありがとう!
テーマ:愛莉のぼやき
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まず伝えたい事はありがとう。
来てくれたみんなはもちろん、ずっと応援してくれたみんな、そしてHappy-Go-Luckyのメンバー。
ありがとう。
美穂も言っている通り、今回は詩音がライブやらないって言った時は正直無理だと思ったよ。
うちのお坊ちゃんは頑固だからね(笑)
けど、それだとあたしや千草、美希が不完全燃焼で受験に集中出来ないんじゃないかって言ってくれた。
他にもいろいろ詩音なりの理由があるからライブをやる気になってくれたんだと思うけど、
それでもやっぱりライブが出来てよかったと思う。
一番は誰も欠ける事無く【Happy-Go-Lucky】としてライブをする事だけどね。
それはまた来年の春、あたし達が晴れて大学生になる事が決まってから。
あたしもブログは息抜き程度だけど続けるよ(´∀`)
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メンバーの記事にはそれぞれ、ファンからのコメントがたくさん書き込まれていた。
『えっ、詩音くんて頑固なのっ?』とか、『受験頑張って!』、『復活楽しみにしてます』、
『昨日のライブよかったよ』、『いつものポップな感じと違ってて新鮮だった』など。
でも、一番多かったのは美穂を気遣うコメントだった。
(つーか、美穂といい、愛莉といい……、俺が頑固って……)
だが、確かに俺は頑固といえば頑固なのかもしれない。
愛莉が突き指をした時もライブはやらなかったし、今回も美穂には安静にしてるよう何度も言ったからなぁー。
さて、気を取り直して俺もブログ更新。
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感謝!
テーマ:詩音のつぶやき
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どうも、頑固な詩音です(笑)
今回は美穂の事で俺がライブをやらないって言ったり、やるって言ったりでみんなの事を振り回してごめん。
最初は美穂が辛い思いをしている時にステージに立てないと思った。
でも、ある人が俺の背中を押してくれた事でステージに立てた。
美穂も喜んでくれたし、これから本格的に受験態勢に入る愛莉や千草や美希も一応区切りをつける事が出来たと思う。
それに何よりファンのみんなにも楽しんで貰えたみたいだし。
やっぱり、やってよかった。
やらないでいたら俺はきっと後悔してた。
全ての人にありがとう。
ただただ感謝。
これから当分練習もライブも出来ないけれど、来年の復活まで新曲を作ろうと思う。
あ、ブログもちゃんと書くからね。
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「更新っと……」
ポチッと更新ボタンをクリックすると、これで本当に明日から部活に愛莉達が来ないんだと思った。
それに美穂も。
美穂は部活だけは出るって言ったけれど、出たってなるべく安静にしていなきゃいけないから
キーボードは弾かせられない。
だから、治るまでせっかくだからシンと一緒に帰れって言った。
シンはメンバーの高校に行って練習をしているからちゃんとしたデートは出来ないだろうけれど、
それでも束の間のデートくらいは出来るだろう――。
◆ ◆ ◆
そうして、一週間後――。
放課後、一人で第一スタジオでギターを弾く事にも徐々に慣れてきた頃、
「寂しい奴、発見」
突然、第一スタジオに愛莉が入って来た。
「お? 愛莉じゃん。どうしたんだ?」
「ちょっと恋しくなって」
「俺が?」
ちょっとふざけてみる。
「うん」
「えっ!? マジでっ?」
冗談で言った言葉に愛莉があっさり『うん』と言ったものだから驚いた。
てっきり『そんな訳ないじゃん!』って怒るかと思っていたのに。
「冗談に決まってんじゃん。ドラムが恋しくて」
愛莉が笑いながら俺の目の前に座る。
「だよな。つーか、俺、そんなに“寂しい奴”に見えた?」
「うん」
「だろうなぁー、だって、一人だもんよー」
「あれ? 『寂しくない』って言わないんだ?」
「言わない」
だって、ホントに寂しいもん。
「詩音て、結構寂しがり屋だったんだ?」
「そ。俺は“うさぎちゃん”なの」
「えー、それって『寂しいと死んじゃ〜う』とか言いたいの?」
「それそれ」
「ぷぷぷっ、それガセなのに♪」
「知ってる。でも、そう言っといた方がなんかピュアに見られそうで良くない?」
「うわー、計算して言ってたんだ?」
「俺がそんな計算高い男に見える?」
「そう言われると見えないけど、詩音て何も考えてないようで実は考えてる時があるからなぁー」
「こんな他愛もない会話で計算なんてしないよ」
――と、そこへ……、
「「はろぉ〜♪」」
千草と美希が入って来た。
二人共ギターとベースを担いでいる。
「あれ? 二人が楽器持って来てるって事は部活する気で来たのか?」
「うん、昨夜愛莉から『週一くらいで“息抜き”って事で部活しない?』ってメールが来たの」
「そうそう、日曜日に一日中勉強して貯まった鬱憤というかストレスを月曜日の部活で発散するって事で」
千草と美希はそれぞれ楽器を置いて愛莉の隣と俺の隣に腰を下ろした。
「けど、美穂はいつも通りシンと一緒に帰って行ったぞ?」
「美穂には知らせないでいようかとも思ったんだけど、一応メールはした。
でも、治るまでは大人しくしてろって付け加えたの」
愛莉は苦笑いしながら言った。
「そっか」
「『じゃないとまた“頑固なお坊ちゃん”に怒られるよー』ってね♪」
千草がクスクス笑う。
「肋骨にひびが入ってんのに部活出てたらライブに出させなかった意味がないだろー?」
「ねぇねぇ、それより揃ったんだからさっそくやろうよ?」
愛莉はドラムスティックを持って立ち上がった。
「うん、やろうやろう♪」
「何やる?」
千草と美希も立ち上がって楽器を手にする。
「詩音も早くー」
愛莉はサブにいる俺にスタジオの中から手招きをした。
「はいはーい」
本当は受験生なんだから『こんな事やってないで帰って勉強しろ』って言う方が正しいのだろう。
だけど、“演(や)りたい”って言う気持ちを同じバンドマン……メンバーとして、
俺は押さえ付ける事は出来なかった――。
◆ ◆ ◆
その日の帰り――、
「詩音、まだ時間ある?」
いつもより早めに部活を終わらせてみんなで帰っていると、千草が口を開いた。
「うん、全然あるよ?」
「じゃあ、そこのお店に入ろ♪」
愛莉は嬉しそうに言いながら目の前のファーストフード店を指差した。
美希もにこにこしている。
(なんだなんだ?)
そうして、四人でファーストフード店に入って腰を落ち着けたところで俺の目の前に座った千草が再び口を開いた。
「詩音」
「ん?」
(なんだろう? 改まって)
「君を軽音楽部の新部長に任命するっ」
「うん? 新部長? あぁ、うん、わかった……て、えぇっ!?」
一人驚きの声を上げる俺。
愛莉と美希はその反応をにこにこしながら見ていた。
「新部長っ? 俺がっ?」
「そう、一昨日決まったから」
「だ、誰が決めたんだ?」
「秋葉先生と三年生部員」
「三年部員はともかく、秋葉先生は全然顔出してないのに俺に部長が務まるかどうかなんてわかんないだろ?」
「ところがねー、あたしもヒロから部長を引き継いだ時に初めて知ったんだけど、
秋葉先生には何か変わった事があった場合の他に定期的に活動報告してるのよ」
「それに三年生部員満場一致で詩音を指名したから」
美希が千草に続いて口を開く。
「俺、新部長はてっきりトシがなるんだと思ってた」
「確かにトシはバンマスだし、リーダーシップはあるけど候補に挙がらなかったのはノリの脱退未遂の事があったからね。
部長の器なら、そこでノリを庇うはずのところなのに他のメンバーと一緒になって詩音に戻って来いとか言ってたしね」
千草は苦笑いしながら少し懐かしい話をした。
「でも、俺が部長になって大丈夫なのかな? 顧問の秋葉先生が外部の人間とバンドをやるのは駄目って言うかもしれないし」
「その辺は大丈夫みたい。基本的には部内でバンドを組むようにって言ってるけど、
ちゃんと申請しておけば他校の生徒の出入りも禁止してないって言ってた。
けど、これを公に言っちゃうとバンドが増えすぎて借りる教室が多くなったりで大変だから、
あくまであたし達みたいに卒業後も一緒にやるバンドや、どうしても一緒にやりたいメンバーがいるって場合だけ
認めてるんだって」
「そっか。じゃあ、俺も美穂も軽音部を辞めなくて済むし、何も問題はないのか……てか、
千草が部長になったのって年明けじゃなかったっけ?」
「あれはヒロがあたしにずっと言い忘れてたんだって」
「あ、そ……」
なんともヒロらしい。
そんな訳で俺は“ありがたく”新部長を拝命した――。