ブルースター −28−

 

 

―――半年後。

俺とナルは今、離れて暮らしている。

・・・というと、「別れたのかよっ!?」と思われそうだが、

実は結婚が決まって“千秋愛美”から“広瀬愛美”に変わる前に

家族で過ごす為に結婚式の一週間前からナルは実家に戻っていた。

 

 

そして一週間後の今日。

俺は結婚式場の新郎控え室で式が始まるのを待っていた。

 

・・・コンコン。

 

ドアをノックする音がして「はい。」と返事をしながら

もしかしてナルかな?なんて思っていると、

ドアを開けて入ってきたのは俺達の結婚式を

取り仕切る式場の男性だった。

「そろそろお時間となりましたので、こちらの方へどうぞ。」

 

「はい。」

 

もうすぐ・・・

 

もうすぐ、ナルに会える。

 

ナルが実家に戻っていた一週間、俺は新婚旅行に行くために

なるべく仕事を片付けていこうと連日遅くまで残業をしていた。

だからナルとは会えなかったし、電話もほとんどできなかった。

一週間ぶりの再会だ。

 

世話係の男性に案内されてチャペルに入ると

俺の親族とナルの親族、それにたくさんの列席者がすでに顔を揃えていた。

その中には矢野と智子ちゃんのカップル、今井先生もいる。

澄子ちゃんは・・・

さすがに呼ぶ気にはなれなかった。

 

ちなみに澄子ちゃんはあの後、今井建築事務所を辞めた。

・・・いや、“辞めさせられた”と言ったほうが正しいだろう。

というのは、あの一件が今井先生の耳に入り、

怒り狂った先生が事務所を辞めさせたのだ。

元々、先生は自分の事務所に入る事に反対していた。

身内だという事で甘えが出てしまうから。

だけど澄子ちゃんがどうしてもというので仕方なく

公私混同をする事のない先生だけど、

渋々、事務所に入れたらしい。

そんな訳で澄子ちゃんは今、別の建築事務所に預けられている。

 

 

チャペルの中がシン・・・と静まり返り、

聖歌隊が歌い始めると同時に入口の大きな扉が開けられ、

二人のシルエットが映し出された。

 

そのシルエットは静かにゆっくりとバージンロードの上を歩いて

俺の方へと近づいてきた。

 

段々と・・・

 

少しずつ、シルエットからはっきりとした姿に変わる。

 

お義父さんにエスコートされて近づいてくるナル・・・。

純白のウェディングドレスに身を包んで少し俯いている。

 

あまりに綺麗なナルのドレス姿に俺は思わず息が止まりそうになった。

 

ウェディングドレスはナルと智子ちゃんの二人で選んだ。

俺も一緒に選びに行くと言うと、「当日の楽しみが減るからダメですっ。」

と、ナルと智子ちゃんに言われ、矢野にも

「たまには男同士でデートしようぜ。」

と、気持ちの悪い事を言われながら

結局、どんなドレスにしたのかさえ教えてくれなかった。

 

肩のあたりまである髪をアップにして頭にはティアラとベール。

そして、ブルースターのブーケ。

サテンとレースのキャミソールのAラインドレスで

トレーンの部分にもレースが使われている。

可愛いけど、シンプルで甘すぎず、ナルらしいな・・・と思った。

 

俺のすぐ目の前まで来たナルは、お義父さんの腕を離れ

俺の左腕に手を回した。

 

少し恥ずかしそうに微笑みながら俺を見上げたナルは

本当に綺麗だった・・・。

 

ナルと結婚できるなんて・・・4年前は思っても見なかった・・・。

 

だけど・・・

 

今日・・・

 

ナルは俺の“妻”になった。

 

 

―――結婚式が終わった夜。

俺達は式場のすぐ隣にあるホテルに泊まることになっていた。

明日はここから新婚旅行に出かける。

披露宴のお色直しで淡いピンクのドレスに着替えたナルと俺は

そのままチェックインした。

部屋はちょっと豪華にスイートルーム。

 

「先輩、コーヒー淹れましょうか?」

部屋に入り、ソファーに腰掛けた俺にナルが言った。

 

「うん。」

ナルも疲れてるんじゃないのかな?・・・と、思いながら

つい、甘えてしまう。

 

・・・て、ゆーか・・・

 

俺には一つ、気になっている事があった。

 

ものすごーく気になっている事・・・

 

それは・・・

 

「はい、先輩。」

熱いコーヒーを持ってきてくれたナルはそのまま

俺の隣に腰をおろした。

 

「ナル。」

俺はコーヒーに手をつけるよりも先にナルの腰を引き寄せた。

 

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