Calling 第29話 お兄さんと中国少女 -3-

 

 

そうして、俺達が固唾を呑んで見ていると鈴が意外な言葉を口にした。

「ごめんなさい……写真は、ちょっと……」

 

(え……)

 

「ダメなの?」

しかし、それでも食い下がる男二人。

 

「ごめんなさい。他に待ってるお客様もいらっしゃるので……えっと、

 ご注文はウーロン茶二つと肉まん二つですね?」

鈴はそう言うと、そそくさと模擬店の裏側へと消えて行った。

男二人は怪訝な顔でその後姿を見つめていた。

 

「鈴、ちゃんと“嫌”って言えるようになったんだな」

「うん、ちょっとびっくり」

シゲと織田ちゃんはそう言っているけれど一番びっくりしているのは

他の誰でもないこの俺だった。

 

以前、変なキャッチセールスから助けた時も「今度から、ちゃんと『興味ありません』って

言うんだぞ?」って言っても彼女はなんとなく自信なさそうに「はい」と答えただけだった。

だからその後、一応念の為、逃げる手段も教えておいた。

誰かが居なきゃ……というより、“俺が居なきゃ”断れないかな? なんて思っていたけれど、

鈴は俺が助けに入る前に自分で断った。

鈴がちゃんと“嫌”だと言えるようになった事が嬉しい反面、

“案外、俺が居なくても大丈夫なのかも……?”と思うと、ちょっと複雑な気分だった。

 

 

     ◆  ◆  ◆

 

 

「おっ、鈴、おかえりっ♪」

午後一時、鈴が俺達の模擬店にやって来た。

 

「おかえり……?」

てっきり俺が『いらっしゃいませ』と言うのかと思っていたらしく、鈴は不思議そうな顔をした。

 

「何、頭の上にクエスチョンマークをいっぱい出してんだよー?」

 

「な、なんで『おかえり』なんですか?」

 

「ここは『お兄、お姉喫茶』だから、店の中は“鈴の家”って設定なんだよ。

 そういうワケで鈴は俺の“妹”って事になるから『おかえり』って言ったんだよ」

 

「は、はぁ……」

 

「ところで、もう一人の“妹”はなんて言う名前?」

鈴は二人で来ていた。

ついさっきも見た記憶がある。

 

「同じクラスの新井朋美ちゃんです」

鈴にそう言われて思い出した。

二人とも制服に着替えているからよくわからなかったけれど、そういえばさっき鈴と一緒に

『肉まん買っチャイナ』にいたっけ?

 

「おかえり、朋美」

俺がそう言うと新井はにこっと笑って「ただいま」と言った。

 

そして鈴に、まだ『ただいま』って言ってないだろ? という顔を向けると、

「た、ただいま」

少し遠慮がちに言った。

 

 

「あのー……先輩、実はお願いがあるんですけどー……」

鈴はテーブルに着くなり、俺の顔をじっと見ながら口を開いた。

 

「ん? 何?」

(なんだろう? 改まって)

 

「サッカー部に宮田晃司さんていますよね?」

 

「あぁ、いるけど?」

宮田晃司は二年生のサッカー部員で後輩だ。

 

「宮田がどうかした?」

 

「紹介してほしいんですけど……」

 

「……え?」

俺は自分の耳を疑った。

(今、『紹介しろ』って言った?)

 

「な、なんで……?」

 

「なんでってー……えーと、そのー……」

鈴は言い渋るように俯いた。

 

「紹介してほしいのは、あたしなんです」

すると、鈴の隣に座っていた新井が口を開いた。

 

「実は、体育祭で初めて宮田先輩を見かけてからずっと気になってて……、

 それでようやく最近になって名前とサッカー部だっていう事がわかったんです。

 でも、いきなり話しかけるのもどうかと思って……」

 

(あー、なるほど。それで俺に紹介しろって言ったのか)

 

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