キューピッド・ゴブリン −26−

 

 

(成瀬さんがレイアだったとは……)

 

その夜、ゲームにログインしたものの、俺は少々……かなり戸惑っていた。

 

レイアの正体を知ってしまった以上、これから先、普通に話せる自信がない。

てか、“自分がオーリーだ”と俺も正直に言うべきなんだろうか?

 

でもなー……

 

そもそもどうやって話を切り出せばいいかわからない。

 

……で、その日は結局何もしないままゲームからログアウトした――。

 

 

 

 

翌朝、駅の改札を出たところで

「竹之内くんっ」

と、誰かに呼び止められた。

 

「ん? あれ? 成瀬さん、おはよう」

 

呼び止めたのは成瀬さんだった。

 

「お、おはよう」

成瀬さんは俺の目の前にくると少しだけ顔を赤くした。

 

(なんか……そんな赤くなられるとこっちまで照れるんだけど……)

 

「あ、あの……これ、昨日のお礼」

そして、成瀬さんが俺に何かを差し出した。

 

(昨日のお礼?)

 

不思議に思いながら、とりあえず受け取ると、

「携帯拾ってくれたお礼」

と、言った。

 

「え……それなら昨日、セット奢ってくれたじゃん?」

成瀬さんは昨日ファーストフード店でもお礼にと言ってセットを奢ってくれた。

 

「う、うん……でも、ちゃんとお礼がしたかったから」

 

「そっか、じゃあー、ありがたく」

差し出された袋を俺が受け取ると、成瀬さんは嬉しそうに笑った。

だってせっかくこうして俺を待っていてくれた訳だし。

 

それから俺と成瀬さんは一緒に学校に向かって歩き始めた。

 

「竹之内くんていつからあのゲームやってるの?」

 

「夏休みの前くらいだよ。成瀬さんは?」

 

「私は高校に入ってから」

 

「へぇー」

 

「今、レベルいくつ?」

 

「83」

 

「じゃあ、私と一緒だ」

 

(知ってる)

 

「どこのサーバー?」

 

このゲームはわりとたくさんの人がやっている。

だからサーバーの数もそれなりにあるワケで、

だいたい一つのサーバーに3,000人くらいがプレイしている。

違うサーバーの場合、チャットルームで話は出来るけど

それぞれのキャラクターに対しては耳打ちも出来ないし、

ゲーム内で会う事は出来ないのだ。

 

で、ここで俺がサーバーの名前を答えてしまうと……

 

『あら、私と同じサーバーね』

      ↓

『じゃあ、やっぱり会った事あるのかもー』

      ↓

『レベルも同じだしー』

      ↓

『竹之内くんのキャラクター名ってなぁに?』

 

……と、まぁこんな感じの会話になるわなー。

でもって俺がオーリーだという事がバレちゃう……と。

 

別にバレてもいいんだけどバレてしまうと

今までみたいにレイアが俺に話しかけてくれなくなる気がした。

 

そんなのは嫌だ。

 

「どこだったっけかな……? 適当にサーバー選んだから忘れた」

俺はレイアに今まで通り話して欲しかった。

だから、そう言って誤魔化した後、俺も成瀬さんがレイアだって事を

意識しない事にした。

 

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